第6章 丁子桜
「ビラ配り緊張する…」
「大丈夫です!オレたちもいるし、一緒に頑張りましょう!」
そうだ、千秋楽をうめないといけないんだから。
両手にたくさんのフライヤーと、やる気だけはもって出発!
ー…してからどのくらい、たっただろう。
「ぜんぜん、はけないね」
「確かにただ配るだけだと、あんまりもらってもらえませんね。」
「ビロードウェイは劇団だらけだからね。
全部もらってると、あっという間に辞書並みの厚さになっちゃう」
「デザイン性と団員の良さ言ったらうちが圧倒的優勝だけどね。」
「こら、無意識に喧嘩売って歩こうとするな。」
「お兄ちゃん」
「誰がお兄ちゃんだっ…って、真澄?」
ピタッと足を止めた真澄くんが、一つ息を吐いて空気を作る。
「"ロミオ……ロミオ=モンタギューだって?
嘘だろ。本当にお前がモンタギュー家のロミオなのか?"」
よく通る声で堂々とお芝居を始めた真澄くん。
外で見ると、まるでそこにほんとにジュリアスが存在するかのように思う。
周りにいた人たちも、急に始まったお芝居に少しずつ湧き立ってくる。
「ロミオ、どうしてお前がロミオモンタギューなんだ」
フライヤーを配らなきゃいけないのに、その声に惹かれてしまう。
「一緒に旅に出よう、ジュリアス。こんな窮屈な町は飛び出して、世界中を巡るんだ」
続いた声に胸が躍る。
「芽李ちゃん、こっちに来て。」
いづみちゃんに腕を引かれる。
「綴くんもお願いします!」
咲が綴くんに声をかけにきたのに、動こうとしない。
「?綴くん、ストリートアクト初めてじゃないよね。」
「なんか、改めて自分が書いたセリフを公衆の前でやるって言うのがちょっと……」
ぐいっと綴くんの服をひっぱる。
「ちょ?!」
「ちょっと、何?照れる?恥ずかしい?恥ずかしいって思ってるなら殴るよ。歯くいしばって。」
「は?」
「…私、みんなに負けないくらい台本読んだよ。毎日読んでる。
台本もらってから何回もロミオ達と旅に出だからわかるよ。
こんなにワクワクするお話、どこにもないって。
公衆にだして恥ずかしいことなんて一つもない、そんなこと思わないで、私綴くんの描く話がすき。」
優しい緑の目が私をとらえる。
拙い私の言葉でも伝えたいことがある。