第6章 丁子桜
「あれ、早いね。真澄君」
「アンタこそ。」
眠い目を擦りながらキッチンへと向かう途中、目の前の扉から出てきたのは運動着姿の真澄君だった。
「まぁ、みんなの朝食つくらないとだからね。」
「昨日、」
「ん?」
これまた珍しく、私の隣を歩く彼は会話を続けようとしている。
「…なんでもない。朝食の準備ってどのくらいかかるの?」
今日に限ってどうしたんだろうと耳を傾けながら、何にするか考える。
「んー、作るものにもよるんだけど…何か食べたいものでもある?」
「なんでもいい。アンタが作るのは、美味しいから。…咲也の稽古付き合うからアンタにも来てほしい。」
いつもより素直な真澄くんに、今日は雨でも降るんだろうかと思ったけど、あいにくそう言うことではないらしい。
「私?監督じゃなくて?」
「俺は監督がいいけど、アイツはアンタの方ばっかり見てる。だから、来て。」
そんなの、気のせいだと思うけど…
「…わかった。作ったらすぐ稽古場行くね?」
私が答えると、満足そうにうなづいてせっかく着いたのにそそくさとキッチンから出ていった真澄君。
てっきり水でも飲みにきたのかと思ったのに、私に伝えたいだけだったのかと思いながら支度を始める。
出来るだけ手早く作れるものは…と。
ーーーーーー
ーー
朝食の支度を終えて稽古場に向かうと、ちょうど休憩に入ったところのようでばっと真澄君と驚いた顔の咲、それからシトロン君と目が合う。
「オ〜っ、メイもトクさんネ!どうしたヨ、こんな朝早くから」
「真澄くんから誘われたからね。ドリンク追加で持ってきたよ」
「ありがとうございます、酒井さん!」
「アンタ来るの遅すぎ」
そう言いながらも畳まれたパイプ椅子を渡してくる真澄くんは、いつもより少しだけ優しい。
「ありがとう、真澄君」
咲の稽古付き合ってくれることも…、
「別に。アンタは、呼ばないと来ないから。」
「そんなこと、」
「これからは毎日来て。遅れたら許さない」
「真澄君、酒井さんだって毎朝忙しいんだから」
「咲也に言ってない。約束して。」
「…わかった。なるべく来れるようにする。」
「絶対来て」
「はい」
満足そうに笑うと、オタオタしてる咲を中央まで引っ張っていく真澄君。