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3月9日  【A3】

第6章 丁子桜


 「マーキングしてる犬みたい」

 ボソッと言った声もこの距離だから、全然聞こえる。

 「デリカシーどこで置いてきたの。」
 「お前こそ、素直さ咲也に全部あげちゃったんじゃない?」

 それは言えてる。

 「そーだよ、可愛くて優しくて素直で、自慢の弟だよ。咲は。」
 「はいはい。とりあえず、咲也のことが大好きでたまらないのはわかったし、なんなら同志」

 ぽんぽんと私の背中をさすってくる至さん。
 でも、そんなのされたってさ…
 
 「咲は譲らない」
 「急に真澄化してるし。」
 「同担拒否」
 「どっから覚えてきたソレ。」
 「至」
 「呼び捨てかよ、」

 少しだけ、至さんの体温が上がった気がする。

 「至だって、私のこと呼び捨てじゃん」
 「気付いてたんだ、言わないからてっきり気付いてないのかと。」
 「そこまでバカじゃないもん。でも、もう呼ばない。茅ヶ崎さんって呼ぶ」
 「急に距離置くのやめい。…って、ムードどこにやったんだよ、ムードクラッシャー。」

 どっちがって言いたかったけど、黙る。
 そもそもムードって何?

 「まぁ、話を戻すとして。」

 急に真剣なトーンで話し出す至さん。

 「…芽李は、何にもできないって言ったけどさ、俺らだってそこまでバカじゃないからさ。

 感謝してるから、お前に返したいって思ってるんだよ。

 自分ではわからないかもしれないけど、カンパニーとか自分のためとかそれだけじゃなくて、一生懸命でこの場所を大切に思ってる芽李がいるからこそ、この場所を無くしたくないっておもうんだよ。
 それだけで頑張れるんだよ、男って単純だからね」

 体温が離れる。
 また、肩に乗る至さんの手。

 「咲也にだって伝えてもいいとおもうけど、ソレが今は怖いなら後でだっていい。芽李がここにいる限り、きっと俺達も離れられないから。…って、俺に言われても信用できないって顔してる。仕方ない、誓のキスでも」

 ペシっと至さんの顔を抑える。

 「ヘンタイ、ティボルトはそんなことしない」
 「ティボルトは業務外。今は茅ヶ崎至だから、‥まぁ、なんて言うか」

 顔を抑えてる腕を掴まれて顔から外される。
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