第2章 第一章君が好き
奏音さんがいなくなるかもしれない。
もしそうなったらどうなるんだろう?
今の小鳥遊芸能事務所は実質事務員は俺と彼で、紡さんはマネージャーに就任したばかりだ。
まだサポートが必要で、裏方の手伝いに営業や会場を借りるための交渉は奏音さんがしてくれている。
だけど、彼は社員じゃなくてバイトだ。
「僕としては正規で雇いたいんだけどね…彼はデザイナーとしての才能があるから事務員として縛り付けたくないしね」
「社長…」
確かに事務員を兼任しながら車で送り迎えをして紡さんのサポートをしている事もあるが、他のタレントのマネージメントもしていた。
すっかり忘れていた。
「律君や響也君の好意に甘えてボランティアでダンスレッスンもしてもらっているしね」
「二人は音楽をされていたんですか?プロ並みにダンスも歌も上手ですし」
「ああ、ビジュアル的にもアイドル顔負けだろ」
初めて会った時は所属タレントかと間違えた程だ。
「僕も彼等をタレントとしてスカウトしたかったんだけど。裏方の方が良いって言うんだよ…今でもスカウトは来ているらしいけど」
「やっぱり」
来ない方がおかしいかもしれない。
ルックスだけでなくオーラ―があるあの二人なら芸能事務所は放って置かないだろうな。
「一番すごいのは奏音君だけどね」
「え?」
「彼なんて歌舞伎町で何度かホストにスカウト受けたり、一時は執事喫茶でバイトしていたからね」
「してたんですか!」
冗談じゃなくて本当だったんだ。
「本当にイケメンだったよ?高校生の時に既に執事喫茶で働いてたし」
「いえ、それはダメでしょう!」
未成年で執事喫茶なんてどう考えてもアウトだけど。
『おかえりなさいませお嬢様』
まずい、想像してしまう。
きっと沢山の女の子を誘惑して泣かせたんじゃないかな。
「万理君、恋愛は自由だから反対しないよ」
「え?ちょっ…社長!」
「うんうん、青春だね」
「ですから!」
何でそんな温かい目で見られるんだろうか。
絶対違う!
「社長、俺はそんなんじゃ」
「え?そうなのかい…奏音君の事を考える時の万理君の目は優しいからね」
「彼は恩人ですから…」
そうだ。
絶対そうだ。
俺は男が好きなんて事はないはずだ。