第2章 第一章君が好き
環君の言われた時、俺は否定できなかった。
響也さんと律さんがズルいと思う時は幾度もある。
俺は奏音君との付き合は五年程度だけど二人は十年以上の付き合いで、遠慮なく気兼ねもない。
紡さんや真琴君とは違う意味で信頼関係がある。
俺が事務員として本格的に働き出してからさん付けで呼ぶようになった。
もっと気軽に読んでくれていたのに…
二人みたいに呼び捨てにしてくれてもいいのに、何処か距離を感じる時がある。
「はぁー…」
「万理君、元気ないね」
「社長!」
仕事に戻り、パソコンの画面と睨めっこをしている社長に声をかけられる。
「すいません…」
「悩みごとかい?」
「いえ…」
言えない。
#NANE1#さんに距離を取られていて寂しいなんてカッコ悪すぎる。
「さしずめ、奏音君の事かな?」
「え…」
「なんとなく勘だよ。彼は悪気はないんだ…他人と距離勘が激しいからね。律君と響也君は家族以上の存在でもあるんだ。千君にとっての君と同じだよ」
「社長、少し誤解があるようですが」
確かに千をの面倒を見ていた事はあるけど、何処をどうしたらあの二人が千と同じだと言うんだろう?
「二人は家庭が複雑でね…家族との縁も薄いんだ」
「え?」
「昔は結構荒れていたんだ。僕の事もゴミを見る様な目で何度か睨まれたよ…悪いのは大人なんだけどね」
知らなかった。
今でこそ礼儀正しくてあんなにいい人なのに。
社長に対しても敬意を持っているようにも見える。
「一時は不良でブイブイ言わせていたんだ」
社長…流石に言い回しが古いです。
「でもそんな彼等を最後まで見捨てなかったのが彼だ。紡と真琴君も片親だったから寂しい思いをしたいたけど…彼が二人に愛情を与えてくれたおかげでいい子に育ったんだ」
「そうだったんですね…でも想像できます」
奏音さんは優しい。
とっても優しくて温かい人だった。
過去に俺を優しいなんて言う人はいるけど、俺よりもずっと他者への慈しみの念が強い人だと思う。
「だからなんだろうね。優し過ぎる故に相手と距離を取っている…何時かいなくなった時の為に」
「え?」
「時々そう思うんだ。本当にいつかいなくなるような気がしてね」
寂しそうに言う社長に俺は大丈夫ですと言えなかった。