第5章 第四章君が好きだから
奏音さんはストーカー被害に合ったと聞かされた。
「前の事務所で何かあったの?」
「少しばかり目立ちすぎてしまって…その大手芸能事務所に睨まれてしまったんです…まぁ、対処はしていたんですが」
笑っていながらも手が震えていた。
「前々から千を移籍させろと言われていたのです」
「は?」
移籍って、千だけを!
「大手の事務所で、抵抗するのは難しかったのですが…なんとか逃げていたんですが、今度は私も移籍しろと言われるようになって…それで」
「何かされたの?」
「曲を書くなら見逃してやると言われて…最初はそれだけだったんですけど」
俯く奏音さんを見てすべてが解った。
ようするに脅迫に近い事をされ脅され続けていたんだ。
「やたらと絡んでくるようになって…できるだけ逃げてはいたんですけど。その後写真をスパ抜かれて」
クソ野郎!
最初からそのつもりで奏音さんに近づいていたのか!
「人気アイドルが女性プロデューサーということもあり、色々問題はあったんですが…岡崎社長が庇ってくれていたのですが…その方は売り出し中のアイドルで自分のプロデューサーになればいい思いをさせてやると言われて」
しつこく迫られたのか。
よくあるパターンで、芸能界ならありそうだ。
けれど…
「私は売れたいわけじゃないんです。ファンの人に喜んで欲しかっただけなのに」
奏音さんの気持ちを無視して強引な手を使い始めたのか。
「何度か断り続けていたんですが…その人が癇癪を起されてしまって」
そのアイドルはきっと、奏音さんにストーカーをしていたんだろう。
けれど、言葉ではっきり言わないのは奏音さんの優しさなのかもしれない。
「運が悪かったのだと思います。相手は大手芸能事務所のタレントで私はしがないプロデューサーだったので」
「ちょっと待って…じゃあ君が責任を取らされたの?」
「責任という程ではないのですが…事務所を辞めざるを得なくなって」
被害者にも関わらず相手が大手芸能事務所のタレントだというだけでもみ消しにされたあげく、奏音さんは解雇されざる得なくなったなんて酷すぎる!