第5章 第四章君が好きだから
【万理side】
奏音さんの過去を知らされ、俺は言葉を失った。
十年前に俺に手紙をくれた子は奏音さんだった。
バンド活動をしてすぐに俺宛てに届いた手紙だった。
子供が書いたような手紙だっけど、俺達の音楽が、歌が病気の女の子に勇気を与えることができた。
誰かを元気にさせることがこんなにも嬉しい事なんだと思った。
あの手紙は今でも持っている。
けれどある日を境に手紙はぱたりと来なくなった。
何処かで聞いてくれていたら良いと思った。
けれど、その正体が奏音さんだったなんて知らなかった。
「奏音さん、俺は感謝しているんだ。あの手紙の送り主にも君にも」
「私に?」
「あの頃は、音楽活動が上手く行ってなかったからね」
主に千が所かまわず問題を起こし続けていた。
その所為で音楽活動は上手く行かなかったし、バンドを組み始めてから恋人は出来たけど浮気をされてしまった。
色々精神的に痛い事が多かった中で、あの手紙が俺の癒しになった。
「活動が軌道に乗っても千は精神的に不安定だったけど、百君のおかげで変わった」
「万理さん…」
「今の千がいるのは百君のおかげだ」
申し訳なく思うことは多々ある。
俺がいなくなったことで百君に大きな負担を強いてしまった。
「そんな…roomの生みの親は万理さんです。貴方がいなかったらこの世にRe:valeは存在しなかった…九条さんの元に行けば彼の音楽は壊れていたはずです」
「ありがとう…」
そう言って貰えるだけで十分だよ。
「でも、俺は歌うよりも裏方の仕事が好きになっていたし。千程の才能がない事は知っていた」
「彼だけでは歌えません。彼にはソロとして致命的です。あんな危なっかしい人、芸能界で刺されます」
「刺されるか…確かに」
千の世渡り下手は俺が一番知っているから、一人じゃ危険かもしれない。
「女性関係もましになったといえ、共演者に普通に喧嘩を売ってしまうし、音楽プロデューサーにケチ着けてダメだしもして…あげくの果ては」
「ちょっと待って!」
後半部分はとんでもない事を聞いてしまった気がする。
「奏音さん、何でそんなに詳しいの?いや…待って」
そういえば。奏音さんは以前は別の事務所でアイドルのプロデュースをしていたって。