第5章 第四章君が好きだから
『僕が君を助けてあげよう』
悪魔の囁きだった。
全てを奪われた私にあの人が告げた言葉はまさに悪魔の甘い囁きに聞こえた。
「手術で歌えない体になると宣告されました。その時にある人がいいました。君はゼロを超える逸材だ。私の手を取るべきだと」
「なっ!」
「外国で手術を受ければ今まで通り歌えると言われましたが、私はその手を拒絶しました…いいえ、せざる得なかった」
大切な歌を滲ませたくなかった。
私にとって何よりも大切な音楽をあの人の手で支配されたくなかった。
「音楽は自由なモノなのに、その人は音楽を支配しようとした。だから断りました」
「その人の名前は?」
「九条鷹匡」
「あの男が!」
万理さんの目が険しくなるのを感じた。
「落ち着いてください万理さん」
「ごっ、ごめん…」
「彼はゼロの代用品をが欲しいだけで、私を利用しようとしたに過ぎません。それに、歌えない私は価値がない判断するといなくなりましたし」
今でも思い出す。
私の人生は全て間違いだと非難するあの人の横顔を。
「実際歌えない私に価値などなかったと誰もが言いました。生きている事すら意味がないと」
「そんな!」
「私も追い込まれて…このまま消えたいとも思い、仲間の声にも耳を傾けられなかったんです。でも…」
私を助けてくれた一人の天使に救われた。
「でも私の命を救ってくれた一曲に出会いました」
そっと万理さんの手を抱きしめた。
「貴方だった…」
「え?」
「絶望の中から私を救い出してくれたのは貴方の歌でした」
私がその曲に出会ったのは本当に偶然だった。
「未完成のぼくら…その曲が私に手術をする勇気をくれました」
「奏音さん…」
私は貴方の歌に救われた。
全てを閉ざし諦めていた私は気づいたの。
「私は自分の苦しさしか見えてなかった。私を気遣ってくれる友人を拒絶してしまっていた事に」
自分だけが辛いんじゃない。
私を大事にしてくれる人達も苦しんでいたのに私は自分の事しか考えてなかった大馬鹿だった。