第2章 第一章君が好き
【三月side】
あの日を境に環は前よりも頻繁にダンスの練習をするようになった。
そして同時に。
「奏ちゃん!新しいダンス見て!りーちゃんが褒めてくれたんだ」
「良いですよ」
「#NAME1#ちゃん!」
学校から帰ったり仕事が終われば必ずという程奏音さんの所に行くようになった。
いや、以前から懐いてはいたけど。
あの日を境に更に奏音さんにべったりになっていた。
「なんか最近のタマ、べったりだな」
「ああ」
「いいなぁー…」
「子供ですね」
「誰がだよ!」
陸と一織のやり取りは何時も通りなのはさて置きだ。
環を誤解して俺達がそろって責めてしまった事は今でも後悔しているけど、あの懐きようはすごい。
「タマキはカナデが大好きですね」
「まぁ、スカウトを受けた時から環君は奏音さんに懐いていたけど…でも、あまり迷惑をかけてないといいんですが」
相変わらず壮五の気苦労は絶えないな。
俺も思うけど、自由過ぎる環は歩調を合わせられない事が多かったけど、奏音さんは環の扱い方が神レベルだった。
「環、もう新しいステップを覚えたんだ。偉いね」
「俺偉い?」
「偉い、偉い…後は皆が合わせられるようにフォロー出来たらもっと偉い」
「やる」
あの通り、本人をやる気にさながらも俺達と合わせられるように先導する所が鮮やかだ。
「律さんと響也さんは別格と思ってたけど。本丸は奏音さんだよな」
「確かに」
俺達が所属する芸能事務所はありえない程社員が少ない。
事務員の万理さんにマネージャーと、補佐の奏音さん。
後は専属契約ではないけど美容師をしてくれている響也さんとメイク担当の律さん。
聞けばあの二人は業界ではかなり人気らしい。
初めてあの二人を見た時、何処のハリウッドスターかよ!って思ったぐらいだ。
でも一番すごいのは奏音さんだった。
中性的な外見だけど、なんていうかオーラが半端ない。
ただの手伝いとは思えない程優秀で、ほとんど裏方に徹底してくれているのが不思議なぐらいなんでもできる。
…つーかあの三人は何で裏方なんだろうと今でも思う程だ。