第2章 第一章君が好き
万理さんの様子がこの頃変だとは感じていたけど。
事務所に蜘蛛が出没している所為だったとは思わなかった。
今後は掃除を徹底すべきだと思い、真琴にも伝えると。
「いや違うだろ!」
「何が?」
「姉さん、鈍いのにも程があるだろ。どんだけだよ!普段は神レベルに鋭い癖に」
何故か真琴が嘆いている。
私は何か悪い勘違いをしたのだろうか?
「私空気読めないから」
「ある意味な」
年々真琴が響に似てきている。
元々母子家庭だった事もあり私の自宅に泊まることが多かった真琴は一時期同居していた二人を兄同然に慕っていた。
だから似るのも解るけど。
最近真琴が手厳しいと感じるのは気のせいじゃない。
昔は私の後ろついて来て可愛かったのに。
「時って残酷ね。まこちゃん」
「まこちゃん言うな!」
小さい頃はまこちゃんと呼んでいたけど中学生になってからまこちゃんと呼ぶと怒られるようになった。
思春期に突入したから恥ずかしいのかも。
「万理さんは鋭いから警戒しろよ。俺や兄さん達はずっと一緒に入れるわけじゃないんだぞ」
「まぁ、努力するわ。でも後数か月だけだし」
もうすぐ任期も終わるしね。
そうすればバイトも辞めるつもりだし。
「姉さん…いいのか」
「いいも悪いも、私は繋ぎよ」
「おじさんはそう思ってないだろ」
事務員として雇って欲しいと言えば快く了承してくれるけど、それはキツイかもしれない。
「捨てた夢にすがる気はないの。形のない未来に縛られる気はない」
「姉さん」
「私は仕立て屋になるって決めたの。貴方達のような輝くを持つ人に魔法をかけられるようになりたい」
別に事務員が嫌なわけじゃない。
でもあまり身近に音楽があると忘れてしまうから。
「もう歌わないのかよ」
「歌えないわ」
私の体はもう悲鳴を上げ、歌うことはできない。
だから私は裏方になった。
でも音楽を作るのもできなくなった。
そんな私がデザイナーとなったのは、音楽活動をしていた時から衣裳を手作りしていたからだ。
小さい頃から小物づくりは好きだったのもあるけど、音楽活動を止めざるを得ない時にデザイナーの勉強をして裏方に徹底した。
音楽活動をしていたメンバーの一人が私に言ってくれたからだ。