第8章 Joint work
「ごめん、気にせずそれ終わったら先帰っていいよ?」
後ろの作業台でパターンの微調整をしている三ツ谷くんに声をかけた。
思った以上に私の作業が難航している。
閉門時間まで粘るから先帰って、と伝えたのだが、彼は首を横に振った。
「先帰ってって言うけど、閉門までいたら8時じゃん。そんな時間に女の子1人歩かせらんないでしょ。出来るとこの裁断とかやっとくワ。」
「いやそんな大袈裟な」
「大袈裟でもいいんだよ。大切なペアになんかあってからじゃ遅いだろ。」
待って三ツ谷くん、今のセリフは全女子が言われたい胸きゅんセリフランキングトップ10に入るやつじゃないですか!?
「三ツ谷くんてさあ、モテるでしょ。」
「は?」
あ、と思った。頭の中で考えてただけのはずなのに目の前の作業に集中しすぎてつい口から出てしまった。
ペン回しをしながらデザイン画と睨めっこをしていた三ツ谷くんの手からシャーペンが転がり落ちて派手な音を立てる。
「だってそんな気を使えるセリフがサラッと出てくるの、相当紳士じゃん。女の子はそういう人に弱いのよきっと。」
うんうん、と頷きながらマウスを動かす。
よし、何とかごまかせたはずだ。主語を「女の子」に置き換えることで全女子の意見ということにする。さすが!賢いぞ私!
「あのさ、別にオレだって誰にでもこんなことするわけじゃないよ?」
大事なペアだって言ったろ、コンペまであと少しなんだから頼むぜ相棒、そう言うと三ツ谷くんは再び手元の紙に視線を落とした。