第9章 Under the weather
「三ツ谷くんって普段バイク乗ってるの?」
「え?…ああ、ここにバイクで来たの見られてたのか。」
昔から好きでさ、と何となくはぐらかされたような回答。
あまり突っ込んで欲しくないことだろうか。バイク、渋い趣味だなあとは思うけど隠すようなことだろうか。
「バイクかっこいいよね。昔お兄ちゃんが乗っててさ。結局1度も後ろに乗せてもらえなかったけど。ふあ、」
お腹がいっぱいになって体が温まれば眠たくなってくるのは必然で。
本能には抗えず小さくあくびをした。
「片付けやっとくから、眠いなら寝とけ。」
「お母さんじゃん!ありがと〜!たまご粥すごく美味しかった。」
「だからお母さんはやめろって。でも口にあったようでよかったワ。」
キッチンで皿を洗う三谷くんの背中を眺めていたら本格的に睡魔に襲われる。
控えめな水音と、陶器の軽くぶつかるような音が耳に心地よい。
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気がつくと家の中は無音が支配していた。
体を起こすと肩からタオルケットが滑り落ちる。
テーブルに肘をついて三ツ谷くんの片付けを眺めていたつもりが、そのままテーブルを枕に寝てしまったらしい。肩のタオルケットは三ツ谷くんが掛けて行ってくれたのだろう。
ふと、テーブルの上に1枚のメモを見つけた。
腕を伸ばして引き寄せると、見覚えのある丁寧な文字。
『鍵、ポストの中に入れとく。腹減ったら冷蔵庫の中見てみ。それと、寝るならベッドで寝ろよな。悪化しても知らねーぞ。』
冷蔵庫を開けてみるとラップのかかったお皿が3つ。
スープとお粥と果物だ。
「実の母よりお母さんしてくれてるじゃん。」
ここまでしてくれるのにお母さんって呼ぶな、は無理な話だ、と一人で苦笑する。
体調を崩すのも、たまには悪くない。
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Under the weather/体調の悪い日