第6章 Slowly but surely
生地も見ながらもう少し詰めたい、という三ツ谷くんの言葉に学校近くの手芸屋さんへ足を運んだ。
本当ならば布の問屋が立ち並ぶ日暮里まで行きたいところなのだが、授業が終わってからでは閉店時間に間に合わないし、今回はあくまで下見のつもりだ。
「あーこれとかいい、ここにこの生地使ったらヒラヒラしてすごい良さそう。」
「こっちのキラキラもいい感じ〜!」
「これ!ここの布絶対これにしよ。」
私が布を触りながら独り言を呟く横で三ツ谷くんはノートにメモを沢山残している。
何のメモ?と聞いたら、生地の質感や色合いを主観的に残しているらしい。
書いておかないとすぐ忘れるんだよな、と言っていたがこういう細かい努力の積み重ねであのデザインが出来上がっているのかと思うと本当に頭が下がる。
ふと時計を見ると7時を回ろうとしている。つい集中しすぎて長居してしまった。
「三ツ谷くん、そろそろ帰ろう。結構遅くなっちゃった。」
「ほんとだ。悪い、遅くまで付き合わせて。」
「そこ謝るとこじゃないから。デザ専だからって全部1人でやんなくていいんだよ。2人の課題なんだから一緒にやろうよ。」
「……。」
「あれ?なんで黙る?」
「いやーオレ、さんとペア組めて良かったなあって。」
「…ッ製作に入ったらその分手伝ってもらいますので!今のうちに恩売ってるだけ!!」
「ハハ、おっかねぇな」
急に先日の河原での出来事がフラッシュバックする。三ツ谷くんがあんな告白みたいな雰囲気にするからいやでも意識してしまう。加えてあの茜のセリフだ。
今の私の顔は赤くないだろうか。並んで歩く三ツ谷くんにバレないようにそっと横を向いた。