第1章 Prologue
イレギュラーな出来事が功を奏したのか、程よく緊張が解けて試験の出来は良かったと思う。少なくとも手応えはあった。
「本当に本当にありがとうございました。」
借りた消しゴムにお菓子を添えて彼に渡し、深々と頭を下げる。
帰りの電車で食べようと思って買った大好きなアーモンドチョコ。
「いや、たかが消しゴム貸しただけでこれはさすがに受け取れないって。」
「ほんと、遠慮せず貰ってください。むしろ私の人生においての救世主と言っても過言ではないわけなので、そのお礼にしては安すぎるくらいですよ。」
少し開いていた彼の鞄の隙間にチョコの箱をねじ込むと、ぐいとファスナーを閉めた。
「救世主って、ハハッ大袈裟な。でもじゃあありがたく貰っとくワ。美味いよなコレ。」
笑いながら鞄を肩にかけた彼に倣って、私もリュックを背負う。
気づけば受験生達も半数以上がすでに教室を出た後のようだ。
「帰り電車?」
「はい。新宿駅から。」
「お、じゃあ一緒だ。良ければ駅まで一緒に行こうぜ。」
「助かります!新宿駅って何回来ても迷っちゃうんですよね。」
「ハハ分かる。地下入ったらもうわけわかんねえよな。」
2人並んで専門学校を後にする。