第1章 Prologue
消しゴムがないことに気づいたのは、試験の始まる10分前だった。
第一希望の専門学校。
もし合格したら一人暮らしさせなきゃいけない、と渋る親をなんとか説得して受験させてもらった学校だった。
今からでは購買に行く時間もない。(そもそも入学試験の日に購買が開いているかも分からない)
筆箱をひっくり返し、財布、パスケース、カバンの小さなポケットにいたるまで探したがやっぱり消しゴムは見当たらない。
残念ながら消しゴム二個持ってない?と聞ける知り合いはこの学校を受験していないし、ライバルでもある知らない受験生に声を掛けられるほど私の神経は図太くなかった。
「どうしよう…。」
とりあえずこの教科は間違わないように慎重に解いて、休憩時間に開いているか分からないけど購買にダッシュしようか。
そうだ、それしかない。
腹を括って机の上に鉛筆と受験票だけを乗せた、はずだった。
ある。
何が?消しゴムが。
あれほど探しても見つからなかったそれが机に乗っている。
なんで?誰かの消しゴムが転がってきた?
きょろきょろと周りを見回すと、隣の席の男の子と目があった。
「オレ2個持ってるからさ。消しゴム忘れたんだろ?」
誇張でもなんでもなく神様かと思った。地獄に仏とはこのことか。
「いいの!?本当にありがとう、助かる!」
「困った時はお互い様だって。試験頑張ろうな。」