第11章 お代は要りません《後編》◉相澤消太
背中にまわった大きな手が離れると、それは愛おしそうに私の頬を包んで
湯気が出ているのではないかと思うほどに熱い顔を上げると、熱を帯びた真剣な瞳に釘付けになる
「恋人として、昨日のやり直しがしたい」
「こ、いびと・・」
「俺だっていい歳してこんな事言うと思わなかったよ」
思い切り顔を顰めた彼がガシガシと頭を掻いて私を睨むと、黒髪の間から刺さる鋭い視線
壊れそうなほど早鐘を打つ胸の音がすでに頭の中をいっぱいにしているのに、唇に残る甘い口付けの感触がそれをさらに加速させていった
「返事はくれないのか」
「もうほんとに、心臓が、だめです・・!」
「そうか、じゃあ後で聞かせてくれ」
生憎もう待てそうに無い、荒い呼吸を抑えるようにそう囁いた唇が耳朶を這って
昨晩と同じように甘く私の名前を呼ぶと、シーツの上で彼の指が私を暴きはじめる
「あの、そういえば、お仕事は・・っ」
「アンタほどじゃないが、こっちも散々だよ」
山田が心配してたぞ、にやりと上がった唇が胸元を滑るとそれはいたずらに肌に吸い付いて
少しかさついた感触の後にはちくりと走る熱い痛み、所有の印が増やされていく
たまらなく幸せでじわりと滲んだ涙、
私の目尻を拭ったその指がそのままふわふわのワンピースの裾に入り込んだ
「ひぁ・・っ、じゃ、学校に戻られますよね」
「確か"手伝えることは手伝う"だったか」
「はい、何でも・・っ」
「んじゃ早速、お願いさせてもらうよ」
誘われるままに指先が導かれたのは首元の真っ黒なファスナー、楽し気に細められた目がじっと私を見つめている
「なっ、そういう意味じゃ・・!」
「ちゃんと、下までね」
電気を消す間もなく押さえ付けられたベッドの上、
恥ずかしさを誤魔化したくて、私は精一杯の嫌味を呟くと目の前の黒髪を睨みつける
「なんか先生、思ってたのと、違います・・!」
「今更幻滅したって逃してやらないよ」
口より手を動かせ、なんて態とらしく時計を見上げた彼の意地悪な上目遣いに頭がくらくらして
「んぁっ、あ・・っ!」
「その調子じゃ、長くかかりそうだな」
毎月集計ご苦労さん、そう薄く笑った彼がチラリとファスナーを見遣るから
私は指先に力を入れて、蜂蜜よりもずっと甘くて深い沼へジジジ、とそれを下ろしていった