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《ヒロアカ短編集》角砂糖にくちびる

第11章 お代は要りません《後編》◉相澤消太



「あの、すみません、頭が混乱して・・」

数分前に沸騰したきり放置されているケトル、狭いキッチンに座り込んだ私の頭の中は今ぐちゃぐちゃになっている






「開けてくれないか」

聞こえたのはこちらを伺うような掠れた声、その言葉と同時に玄関のドアを遠慮がちに叩く音が部屋に響いた


「え!?うそ、なんで・・っ」


「職権濫用だな」


「あの、私、とてもお会いできるような状態じゃなくて!」

すっぴんもこもこ、驚きに震える唇を噛み締めながらあたたかい部屋着に目を落として

こんな姿で会えるわけがない、ぼさぼさの髪をまとめたってそんなに変わらないしと泣きそうになりながら食器棚に映る自身を呆然と眺める


「来て頂いたのにごめんなさい・・!」


くだらない理由だと幻滅されるに違いない、彼の時間を無駄にしてしまったことへの申し訳なさと恐怖で思わずぎゅっと目を瞑る

少しの沈黙の後、彼が発した一言に私は眩暈のする思いがした




「そうだな、俺に触れられるのが嫌なら開けない方がいい」

このまま電話を切ってくれて構わない、感情の読めない声が淡々と私に告げる
心の奥がきゅ、と苦しく音を立てると同時に今度はゆっくりとした速さでコンコンコン、とまた玄関のドアが鳴った




「その場合は今後一切、干渉しないと誓うよ」




思わず漏れ出た私の驚きに、電話越しでも伝わるその気配
にやりと上がる口角、揶揄うように細められた目が容易に浮かんで私は唇を噛んだ



「早く決めてくれ、こっちは忙しいんだ」


「ず、ずるいですそんな言い方・・っ」


敵うはずがない、そう諦めてかちゃりと鍵を開けた途端、思い切り強く引かれた扉

つられて倒れそうになった私を抱きとめたのは昨晩と同じ黒づくめのヒーロー

後ろ手にドアを閉めると性急に重ねられた唇、息も出来ないほどに深く絡められた舌が私を喰んで、汗の匂いに身体が逆上せていく


「ぁい、ざわ先生・・っ」

「了承は取ったはずだ」

頭を押さえる大きな手、長い指がくしゃりと私の髪を掴んで
息苦しくて薄く目を開くと、真っ直ぐな熱い視線に囚われる

何度も啄んだ唇が名残惜しそうに離れると、肩で息をする私を満足そうに眺めた彼は暑そうに捕縛布を解いた


「上がっても?」

黙って頷く私を横目に、彼はいそいそと靴を脱ぐとまた私を抱き寄せた
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