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《ヒロアカ短編集》角砂糖にくちびる

第20章 ポッピンサマークラッシュ◉三馬鹿


数メートル先でふわりと夜風に舞うスカート、淡い色をしたそれが堤防沿いの街灯に照らされる


「・・マっジで許さねェ」

「何とでも言え」

「どんな味した!?いややっぱ言わなくていい!」

「檸檬」

分かりきった答えにもオレはしっかりと苛立って、頭を抱えた朧の背に一発喰らわせる
目線の先にはぽつんと止まった2台の自転車、一足先に辿り着いた彼女が満面の笑みでこちらを振り返った



「帰りは私も漕いでみようかなー!」

体力には結構自信あるの、漕ぎやすいように裾を纏めると露わになった素足に全員の視線が集まった


「これなら大丈夫そう!」

「・・めぐ、マジで言ってる?」

「あ!私には無理だと思ってるんでしょ!」

不服そうに眉を顰めた彼女は心外だと言いたげにオレたちを睨むと、悪戯っ子のようにその目を細めた


「しっかり掴まってないと、落としちゃうからね〜!」









「しっかり」

「掴まる、ってのは」

「こ、こういう感じ・・?!」

思い切りNGな手つきをした朧の腹に、相澤の蹴りが決まる
背中を向けカチャリと開錠音を響かせた彼女は固まるオレたちを見上げて、それはそれは頼もしく微笑んだ



「安全運転でまいります!」


「お、おい、れれ冷静になろうぜ!?」

「お前がな」

疲れたら途中で代わってね、ちゃっかりそう付け加えた彼女がスタンドを蹴ると、細い腕に支えられた自転車が砂利に音を立てて




「・・とりあえず何で勝負するか決めるか」

時間が勿体無い、誰もハンドルを握ろうとしないもう一台の自転車を見つめた相澤が呟く


「正々堂々ジャンケンってカンジ?」

「何でもいい、俺が勝つ」

「何で勝負するか決めるために一旦殴り合いだな!?」

「・・何言ってんだお前」







「早くしないともっと暗くなっちゃうよー!」

ゆっくりと漕ぎ出すペダル、涼しい風が彼女の髪を靡かせて
遠くの空に突然聞こえた破裂音にその表情がぱぁっと輝いた


「ねぇ花火だ!見に行こう!?」



始まったばかりの延長戦、全くもって決着の見えない夏の夜が幕を開ける



「地面に手ェついたら負けな!」

「十秒あれば充分」

「随分弱気じゃねェか!三秒の間違いだろ?」


繰り返す波音に耳を澄ませながら、戦闘訓練さながらのオレたちは揃って息を吸い込んだ
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