第11章 お代は要りません《後編》◉相澤消太
ガシャガシャと響くコピー機の音、私の目の前にはぷちゃへんざレディオのグッズがこれでもかと飾られている
壁に掛かる時計は22時、私たちの上だけを蛍光灯が煌々と照らしていた
「ふふ、山田先生のデスクって楽しいですよね」
「余計な物が多すぎる」
パソコンから目を離さずに呟いた彼がカタカタとキーボードの音を響かせる
ひと通りの書類の整理に目処がついた私が立ち上がると、充血した目がこちらを見上げた
「あ、コーヒー淹れてきますね」
少し驚いた顔をした彼がお礼とともに軽く会釈をして、その律儀さに思わず笑いが漏れる
「・・いつもそうやってるのか」
「え?」
「他の奴のコーヒーとか、お茶とか」
「まさか、淹れてませんよ」
意外だとばかりに見開かれた目、私はそんなに八方美人に映っていたのだろうか
「昨日の缶コーヒーは」
「ああ!あれは・・、あんな時間に残ってるのは相澤先生だけですから」
残業時間ちゃんと把握してるんですからね、態とらしく時計を見上げて口を尖らせると彼はなぜかほっとしたように笑ってディスプレイへと視線を戻した
「お待たせしました」
「助かるよ」
「ふふ、次は肩でもお揉みしましょうか?」
黒い無地のコーヒーカップを口に運んで、疲れた表情で眼薬を注した彼が目を閉じたまま呟いた
「・・ところであの部屋着いいな、猫みたいで」
「えっ、相澤先生、猫お好きなんですか?」
私も好きなんです、そう言ってお気に入りの猫ちゃんカップの絵柄を向けると、相澤先生の椅子がガタッと音を立てた
「あ!先生も、猫ちゃんカップに新調しませんか?」
シンプルで可愛いの知ってるんです、きっとお仕事も捗りますよ、そう言ってくるりと椅子を回すとこれ以上ないほど驚いた表情で彼は私を凝視している
「もちろん、お代は結構ですから」
プレゼントさせてください、嬉しくて早速ぽちぽちとスマホで検索をすると、横から
はぁーーーーーーっと長い溜息が部屋中に響き渡った
「・・お前、もう二度とファンを名乗るなよ」
「えっ」
「あとは持ち帰る、仕事もお前も」
呆気に取られる私を睨みつけると彼は乱暴にパソコンの電源を落として
一晩中働かせてやるから覚悟しとけ、顰めっ面でそう告げるとまだ熱いはずのコーヒーを彼は一気に流し込んだ