第10章 お代は要りません《前編》◉相澤消太
「あ、やっ、だめ、駄目です・・!」
「ここまで来てそれは無いでしょう」
「そ、そうですよね、そうなんですけどっ」
真っ白なシーツの上、互いにシャワーを浴びバスローブを羽織ったこの期に及んで、彼女は両手を突き出し拒否の意を示している
「あんた面白いな」
「な、なんでそんなに格好良いんですか・・!お風呂上がりなんて反則です」
濡れた髪とか本当にだめです、訳の分からないことを言いながら両手で顔を覆った彼女をじりじりと枕元に追い詰める
「それを言うなら、あなたも大概反則ですよ」
ローブから覗く白い脚はきつく閉じられ、はだけた胸元に長い髪が降りたその姿はあまりにも扇情的で、酒が入っていなくてよかったと短い息を吐いた
「ほ、ほんとに、するん、ですか」
「何を今更」
「で、でもイレイザーは、」
「ファンに手を出す、最低な奴だよ」
幻滅したでしょう、耳元で囁くと彼女は首元までその肌を紅く染めて、俺は我慢の糸が切れる音を聞いた気がした
ギシ、と音を立て覆い被さると羞恥に歪んだその唇に触れて
絶対に逃さない、めちゃくちゃに抱きたい、そんな浅ましい本心を悟られないようできる限り優しく舌を絡ませる
「ふ、はぁ・・っ」
口付けの合間に漏れる吐息だけで充分すぎるほど煽られて、自分を見失わないようにと必死で余裕を繕った
「んあ・・っ、やぁ」
「痛かったら言ってください」
「そこ、だめ・・っ、です」
「それは聞けないな」
いつも優雅に弧を描いている唇から漏れるのは乱れた呼吸、次第に落ちていく見慣れたその紅を貪れば細い指は俺の背中に爪を立てる
「んっ、ぁ、イレイ」
「こんな時にそう呼ぶのやめてもらえますか」
「そそ、そうですよねすみません・・っ」
今にも泣き出しそうなその眼を覗き込むと、余裕の欠片も無い自身が映っている
片脚を持ち上げ額を合わせると、彼女は苦しそうに眉を寄せて口付けをせがんだ
「は、ぁあ・・っ!、相澤せんせ」
「厳密、に言うとそれもアウトだよ」
「も、だめ・・っ、ぁああっ」
いつも束ねている綺麗な髪がシーツの上に乱れて広がる
皆に平等に優しい微笑みをたたえた瞳には、羞恥と情欲がいやらしく揺れて
最初の自制は何処へやら、想いのままに絡み求め合う甘い夜はゆっくりと更けていった