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《ヒロアカ短編集》角砂糖にくちびる

第1章 混じり合うそれに幾つかの◉白雲朧



「ぜーんぶ見てた」

突然の不機嫌な声音に胸が騒つく
ぐい、と首を引き寄せられ額が合わさると鼻先が触れた

「ちょっ、どうしたの・・!」


「好きになるって言われて嬉しかったオレは?」

嘘だって分かってる、それでも嬉しかったんだ
このキモチどうしたらいい?

そう言って切なく揺れたグリーンの瞳に吸い込まれそうになる


「さっきの朧の・・消毒させて」

仮にも一応カレシだからさ、いつもより低いトーンの声に急に息ができなくなって

「や、山田くん、何言って・・」

頭の後ろに回された手に力が入るとゆっくりとその顔が近づいて
ぎゅっ、と思い切り目を閉じて下を向いた



「・・・」


唇は、触れない


恐る恐る目を開けると、にやにやと笑う山田くんと目が合う


「なーんて揶揄ってみたりして!HAHAHA!」

ホントめぐ面白ェな!、パッと私を離した彼がいつものように笑い転げた


「も、もう、びっくりした!!」

「悪かったって!」

全く悪びれもせずにそう言って立ち上がると、山田くんが私の頭をぽんぽんと撫でて

「アイツたぶん屋上にいるぜ」

自分責めて落ち込んでるだろうから頼むわ!と走り出す私の背中を彼が軽く叩く

「・・ありがとう、ちゃんと話してくる!」

文字通り背中を押してくれた山田くんに笑顔を向けると、彼は眉を下げて笑った



全部話して、もう一度気持ちを伝えよう

薄暗い廊下を走り抜け、息を切らしながら長い階段を駆け上った






「・・ありがとう、ね」

シヴィー、息を吐いて乱暴に引いた椅子に座ると教室の入り口に寄り掛かる相澤が視界に入る

「げっ、もしかして」

「ぜーんぶ見てた」

そこ真似する必要なくない!?そう叫ぶと相澤が微かに笑った


「いいのか、お前完全にマジだったろ」

「あんな顔されちゃあなァ・・」

「あー、思いっきり顔背けてたもんな」


「傷付いてんのに!なんなのお前・・!」

最後に足掻くなんてダセェよな、溜息まじりの声が二人だけの教室に溶けた


「なんか、奢る」

そもそもお前は気が多いんだよ、頭冷やせ
オレの鞄を手に取りすたすたと足を進めた相澤が振り返る

「行かないならいいけど」

無表情で語られた言葉に少しだけ視界が滲んだ


「相澤ぁぁあ!!!好き、結婚して!!」

「話、聞いてたか?」

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