第1章 混じり合うそれに幾つかの◉白雲朧
触れた唇に呼吸が止まる
押しつけられたそれはとても熱くて
「なん、で・・」
「俺、やっぱ最低だ」
泣きそうな顔で自嘲した彼の大きな手がくしゃりと私の髪を緩く掴む
一瞬触れられた耳がどうしようもなく、熱い
頬を滑った雫を彼の指が優しく受け止めて、私よりもずっと辛そうにそれを拭った彼が発したのはとても小さな声だった
「・・殴り合いになったら、どっち応援する」
「な、殴り合い・・!?」
思わず聞き返すと「真面目な話だって・・」と彼は頭を抱えてしゃがみこんだ
「はぁ・・親友の彼女を・・」
殴られることはあっても俺が殴ることはねェか、頭を抱えたまま白雲くんが深く項垂れる
「あ、あのね、違うの!山田くんと私は・・っ」
そう言いかけた時、廊下に爆音が響いた
「補習終わったぜYEAHーーーー!!!」
大きな声を響かせながら現れた山田くんは私たち二人を見て目を輝かせた
「アレェ!?めぐも朧も
オレのこと待っててくれたの!?」
口笛を吹き上機嫌に入ってきた彼は私の腕に触れ肩を抱いた
「相澤ももうすぐ来っからさ、
せっかくだし四人でメシ行かね?」
「あ、あのね、実は・・!」
すっかり慣れた手付きで山田くんが私の髪に触れたのと、白雲くんが口を開いたのは同時だった
「わっりぃ!俺、職員室呼ばれてたの忘れてた!」
時間かかるかもしんねぇから先帰っててくれ!
そう言ってぎこちなく笑った彼が足早に教室から去っていく
「OK!じゃ、また明日なー!」
「ちょっと待っ・・!」
追いかけなきゃ
山田くんとは何も無いって
今もずっと貴方が好きだって
ちゃんと、伝えに
「私、白雲くんと話してくる・・!」
泣きそうな顔で「好きだ」と伝えてくれた彼の顔が頭から離れない
唇に触れると心臓がバクバクと大きな音を立てて
早く、行かなくちゃ
窓から差し込む夕陽が私たちの影を長くする
詳しいことは後で話すから!、そう言って走り出そうとした私の手をすれ違い様に山田くんが強く掴んだ
「・・行くなよ」