第9章 ふわふわなんかさせない◉相澤消太
広げた両手に置かれたそれは、蛍光灯の光にきらきらとリボンを輝かせ、それを眺めているだけで心が弾む
「え・・!もしかして、クリスマスプレゼント?」
「ま、そんなところ」
「うれしい・・!ありがとう」
早く開けてと誘うリボンの端を摘んでそれをゆっくりと引くと、包みから出てきたのは淡い桃色のペンだった
「とってもかわいい、!」
大きな目が特徴的なネコちゃんの描かれたそれは、相澤くんが選ぶ物としては多少の違和感があるように感じられて、思わず笑みが溢れる
「ありがとう、大切にするね」
ごめん、私何も用意してなくて・・!、最後の苺を摘みながら申し訳なさで目を伏せると、相澤くんはぱくりとその赤い一粒を口に含んだ
「わ、っ」
「お返しはこれで充分」
彼の唇に触れた指先がじんじんする
こんな時一体どんな顔をすれば良いのだろうか、恥ずかしさで目を合わせられなくなった私の反応をまるで楽しむように、相澤くんはこちらをじっと見つめている
「確かに、美味いな」
「さ、三人とも今日なんか変だよ、!?」
「・・三人とも、か」
不機嫌そうな声色が耳の近くで響く
なんとなく気まずい雰囲気に視線を迷わせたその時、大きな音を立てて山田くんが教室へと戻ってきた
「あ〜〜〜だっりぃ!相澤!悪ィ、シャーペン貸してくんね?」
日誌の書き漏れくらいでご丁寧に呼びつけなくてもいいじゃねぇか!、大きく悪態をついた山田くんに筆箱から相澤くんが手渡したのは、つい先ほど私が貰ったものと色違いのペンだった
「それ、って・・!」
面倒臭そうに日誌を埋め始めた山田くんの手で、大きな目のネコちゃんが楽しげに揺れている
ちらりと相澤くんを盗み見ても、彼は静かに窓の外を眺めていてその表情はわからない
「相澤にしては、やけに可愛いシャーペンじゃないの!」
「ほっとけ」
どこで見たのかは思い出せないけれど、どこかで見たことのあるキャラクターであることは間違いない、私が知らないだけで今流行っているのかもしれない
数十秒で日誌を埋めた山田くんはまた大きな歌声を響かせながら扉を開いて、寒さに悪態をつきながら職員室へと駆けていく
「そう言えば、白雲くん遅いね?」
「・・そうだな」