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《ヒロアカ短編集》角砂糖にくちびる

第9章 ふわふわなんかさせない◉相澤消太



気を取り直してBGMでも流そうぜ!、そう声を張り上げた山田くんが楽しそうに私に手招きをして、教壇に腰掛けた彼はぽんぽんと横を叩く


「カモン、めぐちゃん!」

どんなのが好みよ?、見せられた画面には沢山のクリスマスソングが表示されていた


「これなんてどうかな?」

この曲すごく好きなの、そう言って小さな画面をタップし山田くんを見上げると
同じく画面に寄っていた彼と予想以上の近さで目が合ってしまった


透き通ったグリーンの瞳は私を映すと一瞬揺れて
数秒後、思わず目を逸らした私の耳元でいつもより少しだけ低い彼の声が響いた


「・・この曲聴く時は、俺いつもめぐのこと考えてる」

この意味わかる?、へらりと眉を下げた彼と膝が触れ合うと胸の奥がきゅっと掴まれて
静かに流れ始めたラブソングは切ない想いを音に乗せて、元々知っている歌なのに、その詞を意識した途端に恥ずかしさで顔を上げられない


「もう、また適当なこと言って・・!」

「めぐもさ、この曲聴くたびに俺を思い出してよ」

赤くなっちゃってかーわい、いつも通りのふざけた口ぶりですら、余裕のない山田くんの本心が伝わってくるようで私はまた落ち着かなくなる


「・・俺にこんな風に思われたら、迷惑かな?」

「えっ、そ、んな・・っ!」

「よかった」


サビを迎えたバラードは愛しくて堪らないと愛を謳い上げて、どうかこの想いが伝わるようにと恋の苦しさを叫ぶ
触れ合った肩から今更のように熱が広がって、山田くんの胸の音までも聴こえてくる気がしてきた私は、恥ずかしさに身を捩った


「だーめ、行かせない」

「や、山田くん」

「めぐ、俺の隣に居てよ」

聞いたことがないほど真剣な彼の声音に思わず顔を上げると、切なげに眉を顰めた山田くんが私を見つめている


「な、なんか今日、山田くん変だよ・・?」

「そりゃ当然、さっきの朧に妬いてンの」


クライマックスを迎えた曲は深い愛を音に乗せて
最後のパート、切ない声が「愛してる」と苦しく歌い上げる直前、









その寸前に、





ブツっ!と音を立てて教室は静寂へと引き戻された

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