第9章 ふわふわなんかさせない◉相澤消太
「わっ、え!?白雲くん!?」
「これでめぐもお揃いだなー!」
人差し指に生クリームを付けた白雲くんが私を見てにやりと笑う
自分の口元から漂う甘い香りが鼻腔を擽ったのも束の間、
悪戯っ子のようなその笑みを背景に、パックから摘まれた赤い苺が私の唇の横を滑った
ゆっくりと拭われたクリームと合わさったそれがそのまま白雲くんの口の中へと消えていく
「めぐの唇、いただきーっ!」
甘くて超美味いわ!そう言うと彼はにっと笑ってその苺をもぐもぐと頬張った
「・・・っ!」
「チョット!?朧サァン!?」
唖然とする二人を見て更に笑みを深くした白雲くんがぺろりと唇を舐めると、私はじわじわと顔に熱が集まるのを感じた
「ちょっ、と、何して・・!」
「めぐの唇、ごちそうさま」
「くく、唇じゃないもん!!!」
「ムキになるなって!ほんと可愛いなめぐは!」
ケラケラと笑うその表情はいつもと変わらない白雲くんで、意識してしまった自分の方が変なのかとさえ思ってしまう
どこまでも人懐っこい彼のことだ、きっと深い意味は無いに違いない
バクバクと音をたてる胸をどうにか落ち着かせようと呼吸を整え白雲くんを見上げると、
数秒何かを考えていた彼は少し眉を下げてから照れ臭そうに頭を掻いた
「・・だめだ!やっぱ恥ずかしくなってきた!」
「そ、そんなこと言われても・・!」
「これがめぐの味かぁあ〜!!!」
両手で顔を隠ししゃがみ込んだ彼がキャーキャー叫ぶと、その耳が段々と赤く染まっていくのが見える
ちらりと私を見上げた白雲くんの顔は苺くらい赤くて、初めて見る彼の表情に心の中がきゅんと甘く音を立てた
「頭冷やしてこい」
「Ahhh、ちょうどチョコ菓子の追加が欲しくなる頃だ!なァ相澤?」
「そうだな」
うずくまった白雲くんを立ち上がらせた山田くんは、両手でポンポンと肩を叩きながら冷たい廊下へと彼を押し出して
すかさず千円札を握らせた相澤くんがピシャリと教室の扉を閉めた
「・・とんだトップバッターだぜ」
「お前も出ていっていいぞ」