第8章 優しく迷子の手を引いて◉飯田天哉
「どうしようもなく、好きだ」
君のことを考えない日はない、自嘲気味に紡がれた愛の言葉に私の視界は更にまた滲んでいく
「わ、私も、同じ気持ちだよ、」
「言わないでくれ、惨めになるだろ」
「どうして、信じてくれないの・・っ」
どんな言葉で伝えれば彼の心を開くことができるのだろうか
貴方と同じ、いや貴方以上に苦しくてこんなにも恋焦がれているというのに
「・・っ、」
体育館の隅、上履きがきゅっという音を響かせる
ジャージの裾を掴んで思い切り背伸びをした私は、固く結ばれたその唇に自身のそれを重ねた
「、ぉい・・っ!」
ぐい、と飯田くんを引き寄せると、彼は息を呑み目を見開いて
私よりずっと大きな身体が驚きに後ずさる寸前、私はその首元に両腕を思い切り絡ませた
「ん・・、っ」
どうかこの気持ちが伝わりますようにと、柔いそれを思い切り押し付ける
生まれて初めてのキスがこんなことになるなんて、
少しだけ沸いた怒りに似た気持ちを彼にぶつけるのはお門違いだとわかっているけれど
抗議に開きかけたその唇を少しだけ喰む
唇が熱くて、恥ずかしくて、どうしようもなくて目を伏せるとまた頬を伝った一雫
ぎゅっと瞼を閉じ、もう一度それを押し付けると
分かりやすく眉を顰めた彼は突然、私の頭に手を回した
「ふ、飯田く、ん・・っ」
「・・始めたのは君だからな」
冷たい壁に押し付けられた背中、逆上せていく身体をそれはどこまで冷やしてくれるだろうか
熱い舌が私の唇をこじ開けると、彼の存在を身体に刻み込むように、何度も激しく絡んでは甘く溶け合って
「しあ、わせ、」
「・・・っ、」
唇の触れ合う距離で見つめた彼はこれ以上無いくらいに赤い顔をしていて
荒くなった吐息と顰められた眉、髪に差し込まれた指は時折私の耳に触れる
理性をそのまま体現したような彼が余裕なく揺らいでいくその姿が、私の身体をどうしようもなく疼かせた
「飯田く、ん、だいすきだよ」
息苦しくて、名残惜しそうに離れた唇の隙間から何とか言葉を紡いで
そっと眼鏡に手をかければ、初めて見る素顔の彼は私を睨みながら熱い息を吐いた