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《ヒロアカ短編集》角砂糖にくちびる

第8章 優しく迷子の手を引いて◉飯田天哉



噛み締めるように発された言葉に心が色を失っていく
こんなに苦しいのなら、この気持ちに気づかないままで居たかったと
遅すぎる後悔が胸の中を覆っていった




「そんな風に言わないで・・、!」


同じ気持ちじゃなくてもいい、でもこの気持ちを否定しないで、

苦しくて悔しくて、愛しい彼の姿を滲ませたそれが止めどなく頬を伝う
憧れの気持ちとは明らかに違う、どうか私を見て欲しいと叫びたくなるこの気持ちは、間違いなく、







「・・君の感情は、俺の兄への憧れだ」


「っ、」





「ただ、」

彼はそこで言葉を切ると真っ直ぐに私を見つめる
肩に置かれた大きな手には汗が滲んで、くしゃりと掴まれた私の制服にそれが伝わっていた




「ただ、俺のこの感情は」


凛とした声とは対照的に、切なげに弱く揺れた濃紺の瞳
その視線に囚われると、私の身体は瞬く間にその温度を上げて






「・・俺は間違いなく、君に恋をしている」


滑稽だよな、目を逸らしそう告げた飯田くんは、苦しそうな表情で力一杯私を抱き寄せた































辞書を開かなくともすぐに浮かぶようになってしまったその定義を思い出すと自然と眉根が寄って


「い、飯田くん・・!」

「・・・」

とっくに出ていた答えのままにその細い腕を引き寄せ閉じ込める
もう戻れない、潔く認めてしまえば腕の中の彼女はこんなにも愛おしくて、それでいて届くことのない想いは苦しみへと変わっていった


「・・この気持ちをどう消せばいいのかわからない」

君の所為だ、そう小さく吐き出した言葉は自身の鼓膜を揺らして、情けなくて思わず歪めた顔を見られないようにと腕に力を込める
ふわりと鼻を掠めた彼女の甘い香りがどうしようもなく心を乱し、頭がくらくらした



「えっと、あの、・・、」


彼女の気持ちを否定しておいて、その小さな身体を腕の中に閉じ込めている
自身の身勝手さを嫌悪しながら、この温もりを生涯忘れることが無いようにと神経を集中させて



「もう少しだけ、こうさせてくれないか」


彼女の手に視線を落とすと、そこには見慣れた筆跡の並んだアンケート用紙、
友に心配をかけた自身の情けなさに苦笑が漏れる

素直になれと言われている気がして、俺は目を閉じ想いのままに言葉を紡いだ
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