第8章 優しく迷子の手を引いて◉飯田天哉
「よっ!委員長も隅に置けないねぇ〜〜」
「「絶許!」」
にやにやと此方を見た瀬呂くんが口笛を吹くと、その横で何故だか知らないが涙を流す上鳴くんと峰田くんが俺を睨んだ
「見ちゃったよ〜?可愛い子とイイ感じなとこ〜」
差し入れまで貰っちゃって羨ましいねぇ、片眉を上げ大袈裟に両手を挙げた瀬呂くんが態とらしく溜息をつく
「な・・!そ、それは誤解だ!」
彼女は普通科の薬師くんといってだな、身の潔白を示そうと必死に説明を始めると、峰田くんが低く恐ろしい声を上げた
「じゃあよォ・・その缶オイラによこせよ・・数分前まで女子が握ってたその缶をよォ・・」
「そ、それはできない、!これは」
彼女の真心なのだから、そう言った俺の言葉は全く届かず
血涙と涎を器用に流し迫り来るその姿に思わず息を呑むと、全速力でその場を後にした
———
「・・んで、今日もそれ飲まねぇのか」
数日後の昼食、いつものようにお盆の端にそれを供えた俺を轟くんが無表情で見つめる
緑谷くんはどうやら所用があるらしい、いつもより静かなテーブルで俺はオレンジ色の缶を手に取った
「あれから、何度か飲もうとしたんだが・・、」
そこで言葉を切ったのは、その後に続く理由が何なのか、自分でもはっきりと解らないでいるためだ
「飲む前に冷やした方がいいぞ」
どう見てももう温いだろ、そう呟いた轟くんがいつものように蕎麦を啜る
涼しげなその姿に、今日は俺も蕎麦にするべきだったと目の前のカレーを眺めた
ーーーー強くひかれて、切なく思うこと。また、そのこころ。特に、男女間の思慕の情。
本当は分かっている
気づけば彼女を目で追ってしまう理由も、
それを決して悟られまいと繕いながら、この隠したい気持ちを伝えたくて途方に暮れた夜の意味も
週一度の委員会でしかまともに言葉を交わせないことがもどかしくて苦しいと、そう思い始めている
「、俺としたことが・・」
小さく呟き思わず眉間に手を遣ると、自身の溜息の向こうで蕎麦を啜る音が一瞬止まった