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《ヒロアカ短編集》角砂糖にくちびる

第8章 優しく迷子の手を引いて◉飯田天哉



いつものように視線を送るとぴたりと合った目、いざとなると恥ずかしくて今日も控えめに手を振る
間髪入れずに敬礼のようなポーズで返した彼に苦笑が漏れた


「めぐ、あの人と友だちなの?
 ヒーロー科に繋がりなんてあるんだ?!」

「ううん、私はただのファンだよ」


どのヒーローよりも格好良くて憧れのインゲニウム・・、うっとりとそう呟くと友人は心底不思議そうに私を見つめる


ジャンケンに負けて仕方なく就くことになった学級委員、学年別の集まりで彼を発見した時の喜びといったら計り知れない


「本当に素敵、、」

「そ、そう?なんかカクカクしてなかった?」

「そこもいいの」


磨かれた廊下は日差しにきらきらと輝き、数分後には強いられるであろう静寂に抗うように各々が会話に花を咲かせていた






———



「飯田くんっ!」

委員会終了後、次回のホームルームで配布予定の用紙を抱えた俺を彼女が呼び止めた


「今日もありがとう、さすがだね」

飯田くんのおかげで、みんなの意見が早くまとまるの
そう言って優しく細められた目、好意に満ちた声音が俺を落ち着かなくさせる
頭を独占している例の問いは、いざ彼女を目の前にすると上手く言葉にできないままだ



「礼には及ばない、共に雄英高校をより良くして行こう!」


「ふふっ、飯田くんはいつも前向きでかっこいいね」

さらりと出たその言葉に、耳がじわりと熱を持つ
手に持つ紙の束に汗が滲んではいけないと、俺はそれを迅速に持ち直した



「薬師くんこそ、感謝を忘れないその心は俺も見習わなくては!」

落ち着かない気持ちに勘付かれないよう声を張り上げると、彼女はとても幸せそうに微笑んで


微かに色付いた頬と伏せられた目があまりにも美しくて、不覚にもどきりと胸が鳴る

嬉しい、そう言ってはにかんだ彼女に見上げられるとその音は更に大きくなった



「い、いけない、そろそろ失礼するよ・・!」

「うん、練習頑張ってね」


よかったら休憩時間にどうぞ、そう言って差し出された缶ジュースを受け取るとひんやりとした掌
彼女によって不覚にも上げられてしまった体温を、これは冷やしてくれるだろうか


そんな事を考えながら、すでに先ほどよりもぬるくなったように感じるその缶を握りしめ
俺は体育館へと足を急がせた
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