• テキストサイズ

《ヒロアカ短編集》角砂糖にくちびる

第7章 TGIF!◉相澤消太



「なぁめぐ、既成事実作ろうぜ、な?」

超ーー優しくすっから!、へらへらと笑った山田がテーブルの上で華奢なその手を捕まえると
困ったように笑った彼女は水の入ったグラスを勧めた


「山田くんってこんなに酒癖悪かった・・?」

「いや、今日は特に荒れてる」

どうせ女絡みだろ、呆れてそう呟くと
目の前の瞳が意味深に伏せられた


「もうオレにはめぐしか居ない!ハイこれ!」

強引に握らされた手をゆっくりと開き、きらりと光ったそれを彼女が見つめる


「キーホルダー付いてる、
 元カノに返された合鍵だよねこれ・・」

「デリカシーの欠片も無いな」


テーブルに両肘をついてまた酒を飲み始めた山田が赤い顔で彼女を見上げた

「いいだろー、どーせ相手居ねェんだし!」

「い、いるよ、相手くらい」

「あの男と別れたの、知ってんだからな!」


いい女なのに男運は毎回最悪だよなァ、呆れたように山田が溜息をつくと
唇を噛んだ彼女の目に涙が溜まって

ぐすん、と鼻を啜ると同時に頬を滑った一雫が彼女のグラスに落ちた


「え、あ、ゴメン・・!めぐ・・?」






コイツの言う通りだ

お前はいつも、幸せになってくれない

変な男に引っ掛かっては涙を流し
その度に安堵している自分に吐き気がする

幸せにしてやる勇気も無い癖に






「ずっと、浮気されてたんだよ」

雫の溶けたグラスを持ち上げた彼女が、その中身を一気に飲み干して

あの時のように吹っ切れた顔で笑った


「・・だから今日は、流されちゃおうかな」



「「は!?」」

「山田くんとなら、」

ぽろぽろと零れた泪を拭ったその手の先で
山田の家の鍵がチャリン、と揺れる

「・・私も、そういう気分だし」


「お前、酔ってんのか」

「全員酔ってるでしょ?」

「俺はまだ一口しか飲んでねェよ」

細い指先が鍵と金具を揺らしまた音を奏でる
それを眺める光の無い瞳を見ていられなくて、俺は目の前のジョッキに手を掛けた





お前はいつも、幸せになってくれない

押されると断れないその性格
いい加減、直したらどうなんだ


山田なら確かに、お前を幸せにするかもしれない



それならいいか、




なんて思えるはず無いだろ

/ 98ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp