第6章 言われなくてもそうするよ◉心操人使※
彼は、本当に優しい、
電話してもいい?と聞くと必ず部屋まで会いに来てくれて
解らない所がある、と言うと一緒に勉強しようと呼んでくれる
どれも口実だときっと分かっているはずなのに、多忙な中私のために時間を割いてくれて
それが嬉しい反面、彼の負担になっている自分が情けなくて、嫌になる
「いつも気にかけてくれて、本当優しいよね」
そう笑って膝の上に視線を落とすとブランケットがほんの少しだけ滲んで、自分の面倒臭さに嫌気が差す
彼の優しさ一つ一つを
素直に受け取ることすらできないなんて
本当、嫌になるよ
「気にかけてくれて、って・・、
付き合ってるんだから当然でしょ」
むっとした声色で言葉を発した心操くんがこちらを真っ直ぐに見つめているのを感じる
落ち着こうと息を吐いて床のシャーペンに手を伸ばした私の肩を、彼が控えめに抱き寄せた
「泣かせてごめん」
ほらまた、気付かれて
「泣いてない、のに」
「・・ならいいけど」
初めて間近で感じる彼の温もりに言葉が出ない
緊張で真っ白になった頭で、爪先に触れる椅子のキャスターをひたすらに見つめた
「前から思ってたんだけどさ、
”付き合ってもらってる”って言われるの
結構傷つくんだけど」
指で頬を掻きながら彼がチラりと私を覗き込む
「え、あ、ごめん・・!」
慌てて彼を見上げると想像していたよりもずっと近くにあったその顔
恥ずかしくて後退りながら、思わずその腕を解いてしまった
せっかく、抱き寄せてくれたのに
「な、なんか本当、色々ごめん・・!」
紅くなっているであろう顔を腕で隠すと、困ったように彼が深く息を吐いた
「・・これ以上美化されたくないから
この際 遠慮なく言わせてもらうけどさ、」
眉を顰めたその顔がゆっくりと私に近づいて
彼の大きな手が私の髪に触れる
「俺はそんなに、できた人間じゃない」
目を見開いた私の視線が彼のそれと重なると
鼻先が触れて
目を閉じる間も無いままに、押し当てられたその感触に呼吸が止まる
ちゅ、と音を立てて名残惜しそうに離れた唇と薄く開いた彼の目に
これ以上無いほど、身体が熱い