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《ヒロアカ短編集》角砂糖にくちびる

第6章 言われなくてもそうするよ◉心操人使※



「進級する前にさ」

首の後ろに手を当てた彼がゆっくりと目を伏せると、小さな声が耳に届いて

「うん?」

「・・付き合ってる事、
 クラスの奴らに言いたいんだけど」

彼の口から飛び出した思いがけない言葉に
私の手からシャーペンが滑り落ちる


想いを告げて約半年、私たちは恋人らしいことを何一つしていなくて
彼氏彼女、というより親友に近いのではないかとさえ思い始めていた


「な、なんで急に・・?」

「薬師のこと好きな奴、結構居るから」

クラス離れたら近くで見張れないし、
心操くんはそう言って気まずそうに床の上のシャーペンを見つめる

「わ、私を好きって・・、誰が!?」

「言うわけないでしょ」

呆れたように笑って顔を上げた彼に、ばくばくと心臓が音を立てた




近くで見張れないし、なんて


「心操くんも、そんな風に思ったりするんだね」


緩んだ口元をセーターの襟に隠すと、下を向いた彼がこちらを窺うようにして呟いた


「・・格好悪いよな」


「え、全然!むしろ嬉しいというか・・!」

心操くんいつもクールだから、なんだか親近感!
笑ってそう言うと、また少し眉を顰めた彼が真っ直ぐに私を見つめる


「クール、ね」

閉め切られた部屋の空気が少しずつ濃くなっていくのを肌で感じながら、なんとなく落ち着かなくて彼から目を逸らした



「・・どう見えてるか知らないけどさ、」

溜息混じりの声が私の鼓膜を揺らす
椅子に座ったままベッドに近づいた彼がそっと私の手を握った



「俺、結構必死だよ」


触れられた手から彼の体温が伝わって
テーピングの施された指と傷の増えた掌が訓練の厳しさを物語る


「クールでもないし、余裕も無い」


「そう、かな・・?」


どんな時も紳士的で冷静な彼は、ヒーローを志す事以外には特段の執着は無いように見えて
その”以外”の中に、私自身もしっかりと分類されている自覚があった


「伝わってないなら、ごめん」

「違うの!いつも私ばっかり我儘に付き合って
 もらってるから申し訳なくて・・!」

心操くんの優しさに甘えてばっかりで、、
そう小さく呟いた私の声が静かな部屋に溶けた

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