第5章 口溶けに恋して◉山田END
「もう帰る・・!」
居ても立っても居られなくて、椅子から立ち上がった私の腕を彼がぎゅっと掴む
「ゴメンって」
窓から見た寒空はあまりにも綺麗に澄み渡っていて、整理のつかないこの気持ちを余計に突きつけられたような気分になった
「・・来るんじゃなかった、」
いつもみたいに五月蝿い声で喋ってよ
そんな顔されたら
どうしていいかわからないじゃない
「酔わせたの、めぐじゃん」
そう言った山田くんが赤い顔を上げる
へらりと繕った笑顔はどう見てもぎこちなくて
掴まれた腕から彼の熱が流れ込んだ
「嘘つき・・!
お酒の味なんて全然しなかったよ・・」
「そりゃあ、ね」
数滴しか入れてねェんだろ?、悪戯っぽく笑みを浮かべた彼がまた一つチョコレートを口に放り込む
「めぐちゃんも、あーん」
「開けるわけないでしょ!」
思い切り睨んで突っぱねると
つれねェのな、そう言って口を尖らせた山田くんがじっと私を見た
「フラれて、可哀想に」
「来年リベンジするからいいの」
「オレが慰めてあげよっか」
机に両肘を付いた彼が立っている私をチラリと見上げる
その視線に不覚にも胸が鳴った自分が心底嫌になった
「よくそんな適当なこと言えるね・・」
ぽんぽんと言葉が出るの羨ましいよ、と皮肉を言うと今朝の先輩の顔が思い出されて涙が出そうになる
もう少し上手く、伝えられたらよかったのかな
「今思い出してたろ」
はぁ、と深い溜息が聞こえた後に見えたのは
いつも笑っている山田くんの苛ついた顔
「それに、オレは適当じゃねェよ」
不機嫌そうに立ち上がった彼は私と目線を合わせると、開いていたカーテンを乱暴に引き寄せる
二人だけの世界がふわりと音を立てた瞬間
いつもより低い声が私の鼓膜を揺らした
「いい加減、こっち見ろって言ってんの」