第2章 これからもっと好きになる◉轟焦凍
「薬師の手、好きだ」
繋がれたままの手を彼の親指がゆっくりと撫でて
その指先が温かくなってしまったのは
私の熱が伝わったからかもしれない、
そう思うとどうしようもなく恥ずかしくて死にそうになった
「は、離しても、いいかな・・?」
その手を外そうともう片方の手を添えると
何かを見つけた彼は眉間に皺を寄せ声を発した
「お前、こっちの指に傷が・・」
俺が捕まえていた方とは逆の手、
綺麗な爪の横が赤く腫れているのに気が付いた
「あ、そうなの、
制服のアイロン掛けで火傷しちゃってね」
水膨れになっちゃった、恥ずかしい
そう言って笑った彼女がその手を後ろに隠す
「傷が残ったらまずいだろ、貸してみろ」
「えっ、大丈夫だよ、すぐ治るし」
「貸せ」
おずおずと差し出されたその手に自身の右手を重ねる
加減しながら冷やすと彼女がちらりと俺を見た
「あ、ありがとう・・」
本当に個性で冷やせるんだね、と
側に置かれた手当て用の氷を見て彼女が恥ずかしそうに顔を伏せる
「細ぇとは思ってたけど、やっぱり細ぇな」
その手は少しでも力を入れたら折れてしまいそうで、華奢なその指先に心臓が音を立てた
「こんなに綺麗で、これから沢山の人の傷を癒す大事な手だろ」
俺がそう言うと、彼女は物言いたげな目で俺を見上げた
「毎日怪我してる轟くんに言われても・・」
沢山の人を守る大事な身体なんだから
轟くんこそあんまり怪我しないでね、
紅い顔で紡がれる彼女の言葉一つに
どうしようもなく胸が騒いで
そんな目で俺を見る理由が聞きたい、そう期待してしまう
ぐるぐると渦巻く悶々とした感情、会って間もない俺の言葉は彼女の心に届かないかもしれない
それでも想いを伝えたい気持ちが溢れ出て
初めて知るこの感覚に俺は楽しさすら感じ始めていた
言わずには、いられない
「好きだ」
「えっ、あ、手・・?」
「手だけじゃねェ、薬師が好きだ」
まだ知らない部分も全部、これから好きになる
絶対に好きになる
真っ直ぐに彼女の目を見て想いを吐き出すと
思っていたよりもずっと心がすっきりして
湯気が出るんじゃねえかと思うほど紅くなったその顔が可愛くて、もう一度同じ言葉が口を衝いた
「好きだ」