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《ヒロアカ短編集》角砂糖にくちびる

第2章 これからもっと好きになる◉轟焦凍



そろそろ来る頃かな、なんて
部屋の時計を無意識に見上げる


「何考えてるんだろ私・・」

まるで彼が怪我をして此処に来るのを楽しみにしているようなこの気持ちは
間違いなく医療人の卵失格なんだと思う


でもそんな葛藤も今日で終わり、
実習の最終日を迎えていた





「失礼します」


静かにドアが開くと
いつもより数分早くその姿が見えて
私を見て穏やかに微笑んだ彼が歩みを進める

軽い傷なので治癒は不要です、と今日も静かな声でリカバリーガールに伝えると先生の溜息が響き渡った



「爆破された」

私の前の丸椅子に腰掛けた轟くんがシャツから腕を抜いて、なぜだか満足気にそれを見せた


「な、なんかこの傷・・」


綺麗、そう表現するのが正しいのだろうか
怪我にしては繊細というか何と言うか、

不自然、なほどに


「ねぇこれ、
 戦闘で付いたものじゃないよね・・?」

「わかるのか、さすがだな」

怪訝な顔をする私を他所に
爆豪はやっぱりすげえ、なんて緩やかにその口角が上がる

「轟くん、なんか変だよ?」

いつもより上機嫌なその表情を不思議に思いつつ
消毒綿で傷に触れるとほんの一瞬だけその眉間に皺が寄った


時折聞こえるリカバリーガールの溜息以外は
しんと静まったこの部屋
轟くんが居る時はなんだか空気が濃くなる気がして
少しだけ息が苦しい


「・・薬師の実習、今日で最後だよな」

「うん」

目線をその腕に落としたまま、早くこの傷が治りますようにと想いを込めて処置を施していく

来週からは他の人がこうして彼の手当てをするのだと思うと、なんだか涙が出そうになった


「轟くんとこうして会えるのも今日でお終いかぁ」

少し寂しいかも、そう呟いてちらりと目の前の顔に視線を移しても
彼は変わらず穏やかな表情のまま






私たぶん、轟くんのこと、



少し前から芽生えていたこの気持ちはきっと恋心
それをうっすらと自覚した瞬間、壁に掛かっている時計が17時丁度を告げた

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