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《ヒロアカ短編集》角砂糖にくちびる

第19章 STUCK ON YOU◉轟焦凍※



鮮やかな緑に小鳥の声、学部棟から続くこの道は私の一番のお気に入りで、歩くたびに心が弾む
入学時には桜の花びらで満ちていた景色、今では陽の光を反射した新緑がきらきらと光っている


「医療法のレポートなんだけどさ、」

グループでの研究課題、横を歩く友人がスマホを取り出す
ミーティングの日程を話しながら画面を覗き込むと、後ろを歩く女の子たちの叫ぶ声がした


「ねぇ、あれ!!」

「正門のとこ居るのショートじゃない!?」

「えっやば!イケメンすぎ!!」

てかこっち来る!、悲鳴にも似たその声に嫌な予感がして、恐る恐る顔を上げるとばっちり合わさった視線、スピードを上げた彼がこちらに歩みを進める


「えっ、ショートってあのヒーローの!?」

俺エンデヴァーの大ファンなんだよ、そう呑気にカメラを構えた友人が目を輝かせて、私はおろおろと言葉に詰まった



「めぐ」

「う、うわ!本物だ・・!」

「どうも、いつもお世話になってます」

一見にこやかな彼が挨拶をして、自然な手付きで私の肩から荷物を外す
友人の靴の先が凍り始めていることに気付いた私は、唖然とする彼に別れを告げるとそそくさとショートの腕を掴んで正門へと歩き出した


「なぁ、あいつ誰だ」

「同じ学部の」

「男も居るのか」

「い、いるよ大学だもん」

低く呟いた彼の吐く息が凍っている、彼の手にかかればお気に入りの新緑も一気に季節を逆戻りしてしまう

六年も通うのか、あまりにも深刻そうな顔で呟かれた言葉に思わず笑った私を、彼はじとっと見つめた


「頼む、就職は俺の居る事務所にしてくれ」

「ふふ、いつかね」

まずは病院で働きたいの、やれやれと見上げれば顰められた眉、「医者にも男はいるよな」なんてぶつぶつ言っている姿に呆れた笑いを溢せば、彼は不安そうに私の手を握った


「もう、変装もせずに来ちゃだめだよ、」

ショートは人気者なんだから、道行く人々の好奇の視線が痛くて離そうとした手、ぎゅっと掴まれたそれはびくともしなくて私はまた小さな溜息を溢す


「めぐ、会いたかった」

「お、一昨日会ったよ・・?」

「・・足りてるみたいな言い方だな」

絶望に満ちたその顔、こうなるともう降参するしかないことを私は知っている
決して離してくれない手を握り返すと、彼は少しだけ眉を上げた
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