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《ヒロアカ短編集》角砂糖にくちびる

第19章 STUCK ON YOU◉轟焦凍※



「女性ヒーローとチームアップ組んでも」

お前は妬いてくれねぇ、不服そうに発された言葉すら私には幸せの材料にしかならなくて
五月の晴れた空と、曇る彼の表情があまりにもアンバランスで笑ってしまう


「こんなに愛されてたら、妬く暇がないよ」

背伸びして頬に口付けを落とすと染まったその目元、いつ渡そうかと考えていた小さなそれを私は鞄から取り出した



「不安症な焦凍くんに、これあげる」

開いた手には新しいアパートの合鍵、早く彼に来てほしくて片付けに追われていたことは秘密にしておく

大きく見開かれた二色の瞳がきらきらと光って、やっと見ることができた笑顔が眩しい
私にしか許されない行為、見られない表情に胸がきゅんと鳴って


「まだお仕事中でしょ」

だから夜待ってるね、微笑んで見上げれば優しく細められる綺麗な瞳


「時間が合えば、一緒にごはん食べよう」

「合わせる、泊まる」

「ふふ、そう言うと思った」

実は食器もパジャマも準備してあるの、照れ臭くて地面に落とした視線、息ができないほど抱きしめられると草花に混じって彼の匂いがした



———

「これもこれも、すごく綺麗な人だね」

並んで腰掛けたソファ、開いた雑誌には「注目度No.1新人ヒーロー」の文字
女性モデルと写真におさまる彼がこちらを見つめている

妬いてくれない、そう溢す彼に応えて買ってみた数冊、わざとらしく不機嫌な視線を向ければ彼の額には汗が滲んだ


「俺は嫌だって言ったんだ・・!」

「あれ、妬かれたいん、だよね・・?」

信じてくれ、泣き出しそうなその顔に呆気に取られればぎゅっと背中に回った腕、苦しそうに息を吐いた彼が口付けを強請る


「妬いてほしそうだったから、」

言ってみただけだよ、覗き込んだ私を見下ろすその瞳に安堵の色が浮かぶ、あまりに予想外な反応に驚いたのは私の方だ


「こんな感じなんだな・・焦った・・」

「嬉しくない?」

「ああ・・、俺は妬く方に専念する」

真剣な眼差しで語った彼が雑誌を裏返して、私はまた笑いが止まらなくなる


「逆の立場を想像しただけで吐きそうだ」

今日会ったアイツとめぐが撮影・・、歪んだ口から白い息が漏れる
ちらりと見上げたのは買ったばかりの室内温度計
みるみる数字の下がるそれに笑いを飲み込んだ私は、慌てて彼の右手に触れたのだった
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