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《ヒロアカ短編集》角砂糖にくちびる

第2章 これからもっと好きになる◉轟焦凍




「俺のことも、下の名前で呼んでくれねぇか」


焦凍、


我ながら唐突に、そんなことを言って彼女を真っ直ぐに見つめるとその頬が紅く染まる


「そ、それはちょっと、恥ずかしいかも・・」

「そういうもんか」

「う、うん」

「そうか」

でもさっきの奴のことは名前で呼んでただろ、
言えないその言葉を飲み込むとまたチクリと痛んだ胸
棚に並ぶ薬品の匂いを意識的に吸い込むと
少しだけ心が落ち着く気がした



「じゃあ、始めるね、」


彼女の華奢な手ができたばかりの痣に触れる
思ったよりも内出血のひどくなったそれに彼女の白い指先が映えて


「綺麗だな・・」

無意識に口を衝いたその言葉に、彼女だけでなく自分も驚いた

「え?」

「あ、いや、薬師の手、」

上手く言えねェけど、優しい手だな


昨日聞き出したばかりの名前を呼んで視線を上げると、予想よりも近くにあった紅い顔


「嬉しい、ありがと・・」

胸の奥が堪らなくむず痒い




確かめに来たんだ

果たして自分にそんな感情があるのかを



「もうすぐ終わるからね、」

照れて笑ったその顔を見ると急に部屋が暑く感じられて
その手にもっと触れて欲しい、この時間が終わらないで欲しいと

拍子抜けするほどあっさりと出た答えに苦笑が漏れた


「氷で冷やすけど・・自分で冷やす方が楽かな?」

個性で冷やす方が楽だって昨日言ってたから、そう言って丸い瞳が遠慮がちに俺を覗き込む


「いや、お前にやって貰う方が早く治る気がする」

「ふふ、そうだと嬉しいな」




自覚してしまえば簡単なもので

氷を準備する彼女の手元を眺めながら
明日は誰に頼もうかと友人たちの顔を思い浮かべる

「よし!準備できたよ」



できるだけ長居することにしよう、たった今そう決めた俺が腕を差し出すと彼女は嬉しそうに微笑んで

「練習付き合ってくれてありがとう」

腕に氷を当てながらそう言ってまた笑った

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