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《ヒロアカ短編集》角砂糖にくちびる

第2章 これからもっと好きになる◉轟焦凍



入学以来、何度訪れたかわからないこの部屋

望んで訪れたのは今日が初めてだな、なんて
呑気に思った自分が可笑しくなる

昨日とほぼ同じ時間に扉を開けると
彼女の向いの丸椅子には俺の知らない奴が座っていた


「もう!少し沁みても我慢して、!」

親しげに話す彼女の口から発されたそいつの下の名前に、胸がちくりと痛む


はい、これでおしまいだよ、
そう微笑んだ彼女の両手がそいつの手に触れた

「助かった、ありがとうな!」

「気をつけてね、もう来ちゃダメだよ」


保健室の入り口ですれ違い様に一瞥したそいつは
手当ての済んだ左手を見つめにやついていて
その表情に悶々とした何かが腹に溜まるのを感じる


「え、轟くん!今日も怪我・・?」

「ああ、頼めるか」

「もちろん!」

ここ座って、と少し心配そうな顔で彼女が目の前の椅子を勧める
綺麗な指がするりと滑って、耳に掛けた髪が揺れた


「全く、次から次に・・今週は大繁盛さね」

私の若い時みたいだよ、と
奥に居るリカバリーガールが溜息をつくのが聞こえる


「、さっきの奴は」

「え?」

「仲、良いんだな」

優しく俺の腕に触れたその手に視線を落とし呟くと、目の前の丸い目が更に丸くなった

「うん、同じクラスなの」

通学途中に怪我しちゃったんだって、と
そいつとの会話を思い出したらしい彼女が顔を伏せて笑う


他の奴と楽しそうなのは気に入らない、
そう分かっただけで今日ここに来た意味は確かにあったとどこか俯瞰している一方で

俺のことだけ考えればいい、
俺は昨日からお前のことだけ考えているのに、

そんな大きすぎる感情が膨らんでいくのを感じていた


「今日、何人くらい診た」

「んっと・・5、6人かな?」

ヒーロー科の人も何人か居たよ、そう話しながら彼女が記録用紙にペンを滑らせる

見知った顔がその手に触れられるのを想像すると、さっきの奴の数倍腹が立った

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