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《ヒロアカ短編集》角砂糖にくちびる

第18章 どうでもミルフィーユ◉相澤消太



「これにしようかな」

重なるパイ生地とカスタード、苺に粉砂糖が振られたそれを指さすと相澤くんが興味あり気に呟いた


「なんだっけそれ」

「こういうのあんまり食べない、かな?」

「ああ、食ったことないな」

男は皆んな食ったことないだろ、呆れたように片眉を上げた彼が可笑しくて下を向くと、むっとした相澤くんが注文ボタンを押す


「そんな事ないよ、山田くんは絶対あるって」

「アイツは例外」




あっという間に運ばれたそれは見ているだけで幸せな気持ちになりそうで、頑張っても上がってしまう口元を隠すと目の前の相澤くんが静かに肩を震わせた


「だ、誰がまぬけって・・!?」

「まだ何も言ってないだろ、早よ食え」

相変わらず頬杖をついたまま、じっとこちらを見つめる彼の視線は最高に居心地が悪くて
目の前の甘酸っぱい香りだけが胸いっぱいに広がっていく


「・・相澤くんも、食べる?」

「いや、あとでいい」

言いながら見つめられるのは唇、彼の言わんとしていることに気づくと顔がじわりと熱くなった


「前みたいに」

「そ、れはだめ・・!」

ドリンク片手に楽しそうに眺める顔、大きく響く胸の音を掻き消すように私はフォークでそれを崩していく

心地よい音と広がる香ばしい香り、自然に頬が緩むとまた彼の笑い声が漏れ出て
余裕ぶったその顔をどうにか壊したくて、悔しい気持ちそのままに私は言葉を紡いだ


「さっきの、話なんだけどね」

「ん」

「・・もうしないなんて、やだ」

でも図書室はだめ、精一杯睨みながらもぐもぐ口を動かすと彼は赤く顰めた顔をテーブルに伏せて
悔し気に吐かれた溜息に私は気分がよくなった


「今の・・録音しとけばよかった」

「もう、怒ってるのに」

「なぁ隣行っていいか」

熱の浮かんだ目がじとっと此方を見つめて、テーブルの下ではあっけなく捕まった両足、制服のズボンの感触に頬が熱くなっていく


「隣、だめ・・っ」

「なんで」

「なん、でも」

「んじゃ場所を変えるから、早よ食え」

図書室とファミレス以外か、言い終わると同時に一気に飲み干されたグラスの中、カランと音を立てた氷が私を急かす


「ほら、手伝ってやる」

大きく口を開けて待つ彼に苦笑が漏れて
パイとカスタードを綺麗に掬ったフォークの上、私は取っておいた苺をそっと一番上に乗せた
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