第18章 どうでもミルフィーユ◉相澤消太
心変わりに沈んだこの一ヶ月、春めいていく風景をつくっているのは散っては咲くを繰り返す花々
先輩への気持ちはこの程度だったのだろうか、来年また想いを告げようと決意して流れたあの涙は何だったのだろう
思い出すのは背中に当たる本の感触と甘く絡んだチョコレートの味
道路端にはひらひらと落ちた花びらが重なって、新たに芽吹いた白いつぼみが顔を覗かせていた
「相、澤くん・・っ」
掴まれた手首に彼の汗が伝わる、それを意識した途端に身体は簡単に熱を持って、すべてを彼のせいにした自分がまた嫌になる
「物欲しそうな顔してたくせによく言うよ」
前を向いたまま呟かれたその声に胸の奥がまた痛くなって、ずるい私は唇を噛み締める
黒髪から除く耳が赤く染まっているのがたまらなく嬉しいなんて、葛藤と呼ぶには答えが出すぎていて私は途方に暮れた
「いらっしゃいませ!」
腕を引かれるまま連れて来られたのは駅前のファミレス、向かいに座った彼が広げた期間限定メニューには苺だらけのパフェやケーキが広がっている
「何食いたい」
「えっ、?」
「お返し」
驚きに見開くと広がった視界、赤やピンクで埋め尽くされたメニューがあまりにも似合っていなくて私は思わず笑いを溢した
「ふふ!もう、相澤くんらしいなぁ」
お菓子は普通買って渡すんだよ?、メニューを受け取りながらそう告げると彼は頬杖をついて私を見つめた
「・・・やっと、わらった」
「え?」
大きな溜息が安堵を意味しているのが分かり私はまた言葉を失う
がしがしと頭を掻いた彼が視線をテーブルに落として、小さく呟いた
「・・嫌ならもうしないから、逃げるな」
さすがに傷つく、そう言って顔を上げた相澤くんの視線に囚われる
こつんと突かれたつま先から春が流れ込んでくるみたいで、手に持つメニューと同じ色が私に咲いていく
「笑った顔、一ヶ月も見れなくて堪えた」
あんな事しといて言えたことじゃないけど、そう自嘲気味に呟いた彼はまたじっと私を見つめている
「そんなに見られたら、選びにくいよ・・」
「お前甘いの食ったら、笑うだろ」
あの間抜けな顔が見たい、微かに上がったその口角に胸がぎゅっと音を立てて、どうしようもない恋心を隠すように私はメニューに視線を落とした