第22章 手当て
「痛まない。これもあなたのせいか?」
『そんなわけ……ありません』
(胸の、音…うるさい)
「
もっと触れたいと言ったら、
あなたは怒るだろうか」
(っ………)
凍った冬の湖面のような瞳が、
今は不思議な熱に浮かされている。
(だめって言わないと)
けれど義経様の眼差しに支配されたみたいに
舌が動かない。
背けようとした顔は、頬に添えられた手に
阻まれてしまった。
「───こちらを見ろ、」
『なん、で……』
かすれた声で尋ねた疑問は宙に浮き、
行き場もなく消える。
身体の芯を震わせるような義経様の
深い声と眼差しに、思考は奪われて
しまっていた。
(目が、逸らせない)
「本当に、どうしてだろうな
こうしてあなたを見ていると、
わけもなく胸がざわめく」
見えない糸で容易く私を縛り付けた義経様は、
ゆっくりと口を開く。
「もしも、あの時俺が頼朝公よりも
早くあなたに再開していたら───」
『え………?』
「いや」
頬に触れていた温もりが遠ざかっていく。
「仮定の話はやめるべきだな。
妙なことを言った」
(今のは……どういう意味?)
「引き留めてすまない」
『いえ……』
少し戸惑ってから、無難な答えを見つけた。
『───お大事にどうぞ、義経様』
「ありがとう」
(さっきの………何だったんだろう?)
そっと触れられた頬を自分の手で触れる。
義経様の部屋を去った後も、
まだ私の胸は高鳴っていた。
(あれ以上、あそこにいたら………
流されてしまいそうだった)
意識的に思考を断ち切り、歩き始める。
(そういえば、、手当てをしてる間、
与一さんが見張っててくれるって
言ってたよね)
「ご苦労さん」
角を曲がったところで、柱にもたれかかって
いた与一さんから声をかけられた。
『お待たせ、与一さん』
「どうだった?義経様の怪我は」
『思ってたよりも、傷は深かったよ
後遺症は残らないと思うけど、
数日は安静にする必要ごあるかな』
「安静ねえ…。そんな酷い怪我なのに、
あの人は黙ってようとしてたのか
ほんと、気づいてなかったらと思うと
ぞっとするぜ」