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イケメン源氏伝 〜時を超えて〜

第22章 手当て






『義経様は……それでいいんですか?』

「───構わない」


嵐が来る前の凪のように静かな声に、
肌が総毛立つ。


「この生来も身体も……魂ですら、
俺のものではない」


(私と義経様は、似た境遇だとしても
生まれも生き方も考え方もあまりに
違いすぎる)


普通に暮らしていたら、絶対に道が
交わることはなかっただろう。


(だけど私達は出会ってしまった。
敵という、最悪の形で)


『……義経様』


ゆっくりと息を吐いて、心を落ち着かせる。


『義経様のお気持ちはわかりました。
私にはもう……何も言えません
でも、これだけはお願いします。
治療を施した薬師としての言葉です』


個人の感情を抑えて、言うべきことを探した。


『数日は安静に過ごしてください。
その間だけでも無茶はなさいませんように

それから……しばらくの間、私に
傷の経過をみせていただけますか?』


(立場を忘れたつもりはないけど、
一度引き受けた手当てについては
最後まで責任を持ちたい

それに私が義経様にできることは、
きっとこれ以上はないから)


「……
ああ。ぜひ、よろしく頼む」


穏やかな笑みを向けられ、胸が甘く疼く。


「改めて礼を言おう。
手当てをしてくれて助かった」

『いえ……お力になれて良かったです』

「」

『あ……っ』


すっと伸ばされた手が、私の手に触れる。

強く握り込む指を、義経様が優しく解いた。


「俺は俺の生き方しか知らない
だからこれからも、
この道を歩んでいくだけだ

けれど、今日あなたが俺の治療を
引き受けてくれたことを忘れはしない
あなたの優しさ───誰かを思う
ひたむきさを、美しいと感じたことを」


(っ……そんなこと、言わないで欲しい)


生まれた迷いが、感情が、私の息を
止めてしまいそう何気がするから。

『私はそんなに大したことはしてません
身体の傷を治療することはできても、
義経様の過去の悲しみを拭うことは
できませんから』

(敵じゃなかったら、なんて考えても
仕方ないことばかり考えてしまう)

『……我ながら、中途半端だって思います』



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