第22章 手当て
『一度も……?』
圧倒的な力を持ち、戦の化身のような
戦い方をする義経様の姿がまざまざと蘇る。
(だからあんなに無茶苦茶な
戦いをしてるっていうの?)
「かつて死にかけた時ですら、
俺の胸にあったのは恐怖の感情ではなかった
ただ、身体を灼くような強烈な
未練だけが、俺を生き長らえさせた」
(この目……本気で仰ってるんだ)
『だからこそ義経様はもう一度立ち上がり、
頼朝様に戦いを挑んだんですね……』
(ただ、自分を信じる家臣達のために)
いつの間にか、泣く寸前のように
目の奥がじんと熱を帯びている。
それが何の感情によるものなのか
わからないまま、ただ義経様から
視線を逸らすことができない。
「死は、いずれ誰のもとにもやってくる
だからこそ俺はこの生命を燃やすことを
躊躇いはしない」
『だけど、それじゃ義経様の安らぎや
幸せはどこにあるんですか…?』
「周りの者達が幸せになれば
俺はそれでだけで充分だ」
(どうして………っ)
『そんな生き方……悲しすぎます!』
ぐっと指先を握りしめ、
感情が溢れるのを堪えた。
(っ……涙をこぼしては、いけない
私達はそれが許されるような
関係じゃないから)
爪先が食い込んだ手のひらが痛むけれど、
それ以上に胸が張り裂けてしまいそうだ。
(……どうしてこんな気持ちになるの)
「悲しいと感じてはいない。少なくとも今は」
『え……』
吸い込まれてしまいそうな義経様の瞳の中に、
戸惑う私の姿が揺れる。
「人は俺に戦いの才があると言う
けれど、それはおそらく、生来俺が
どこか欠け落ちている人間だからだろう」
『っ、そんな……』
(否定ができたら良かった)
戦う義経様の姿を見て恐れ、けれど、
思わぬ出来事から少しずつ
その人となりを知り……
あまりにも悲しい生い立ちを知った。
(だからこそ、わかってしまったんだ
義経様は……確かに、何か決定的なものが
欠けてる人だって
欠けてるのに、強くてまっすぐで綺麗な人だ)
「今となってはこう考えている
俺は大切なのを守るそのために、
不完全に生まれてきたに違いないと」