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イケメン源氏伝 〜時を超えて〜

第22章 手当て





(まだ幼い子供なのに誰にも頼ることが
できず、その上あやかしに
狙われていたなんて………)


当時の義経様のことを思うと
胸がひどく痛んだ。

「居場所がどこにもなかった鞍馬寺の
生活の中で、やがて俺は源氏にゆかりの
あった山伏に出会い、己の素性を知った」

『……どんなお気持ちでしたか?』

恐る恐る尋ねてみる。

「驚いたけれど納得もした
自分のいるべき場所がここではないと
確信を得たから、寺を飛び出すことに
したんだ」

昔を思い出すように義経様はゆっくりと
言葉を紡ぐ。

「何も持っていない俺を受け入れて
くれたのが奥州藤原氏だ」

『だから義経様は、この奥州平泉を
拠点にしてるんですね』

「そうだ。ここで多くの縁を得た」

(そうして義経様にとって大事な場所に
なったんだな)

平泉について語る時、義経様の口調は
少し柔らかくなった。

「けれど俺は、また奥州を飛び出すことになる
伊豆に流刑になっていた腹違いの兄が
挙兵しようとしていると知ったからだ」

『…頼朝様が、もう一度平氏と
戦おうとしていたんですね』

「そうだ
それで頼朝公のもとに馳せ参じ、
ともに平家と戦った」

『それまで…一度も頼朝様とお会いした
ことがなかったのに、どうしてですか?』


戦場では、常に死と隣り合わせだ。

一度しか戦場に出ていない私だけど、
それは嫌というほど思い知った。

(いくら兄弟とはいえ、会ったこともない
人のために命を懸けるなんて……)


「同じ血が流れる存在に会ってみたかった
そうすれば、自分が何者であるか
知れる気がしたから」

『義経様…』

いつもより少し低い声に、はっとした。


(そうか。孤独な幼少期を過ごした
義経様にとって、血の繋がりは
すごく大事なものだったんだ…)


「頼朝公と会った時は嬉しかった
性格はまるで違うのに、通じ合うものが
あるように思えて……
ああ、この人が本当に自分の兄なんだと
心から実感した」

『それでお二人はともに戦うように
なったんですね』

「ああ」

長い睫毛が物憂げに伏せられた。

「今となれば愚かな決断だけれど」


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