第22章 手当て
(……沈黙が、鉛みたいに重い)
まるで凍てついた炎のように、
何か矛盾した感情が義経様の目の奥に燃える。
ややあって義経様が口を開いた。
「かつて、俺の父───つまりは
頼朝公の父でもある源氏の棟梁は、
平氏に戦で敗れて処刑された」
(それは……)
『……世情に疎い私でも、何となく
聞いた事があります』
(というより凪咲に聞いたんだけど)
『源氏に勝った平氏は一世を風靡したけど、
最終的にはまた源氏に倒されたって』
(でも、そうか
お二人はそんなひどい形でお父上を
亡くしてたんだ……
私の時代では考えられないけど)
迷いながらも質問を重ねる。
『それって、義経様がどのくらいの
お歳の時に起こったことでしょうか?』
「記憶に残ってないくらい幼い頃だ。
だから事情を知ったのは、もっと
後にかなってからだった」
『っ、そんなに小さい時に……
じゃあ色々とつらい思いをされたでしょうね』
「敗将の息子である俺や頼朝公にとっては、
殺されなかっただけでも幸運だったと言える」
『…負けたら子供でも殺されてしまうなんて』
(それが武士の棟梁の息子に生まれるって
ことなの?)
恐ろしくて悲しくて、きゅっと唇を
噛み締めた。
「俺の場合は、母が平家の棟梁の妾に
なることで、助命された
母は大変な美女だったと聞いているけれど、
処刑された父と同様に顔は覚えていない
俺はそれきり母と離され、鞍馬寺に
幽閉されていたからな」
『鞍馬寺って……』
「前にも話したことがあったな」
『ええ、義経様と夜の庭でお会いした時に』
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「俺は物心がつく前に鞍馬寺というところに
預けられていた
親の顔も今となっては覚えてはいない
自分の素性も知らずに育ったのだけれど、
ただ疎まれているのは感じていたな」
『意外です。義経様にそんな過去が
あるなんて……』
「そうか?」
『…はい』
「色々と理由があったと後になって
知ったのだけれど」
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(あの時は、なんて義経様が疎まれていたのか
不思議だった
源氏の子供だったから腫れ物扱いを
されてたんだ)