第21章 人質
『っ、どうしてそんな言い方を……』
(あんな残酷な場所がふさわしいなんて
悲しいこと、言わないで欲しい)
「向き不向きの話だ。
俺の身体と心は生まれつき戦いに向いている
俺自ら戦場に出れば、自陣の被害は
最小限で済む」
その言葉には、なんの迷いもなかった。
「家臣の命は俺に
とってかけがえのないものだ
それを総大将である俺が守るのは、
当然のことだろう」
(大切な人達を守りたいって気持ちはわかる)
私だってそのために微力ながらも
力をつけた。
大切なものを失うと想像しただけで、
胸が引き裂かれるように痛むから。
(わかるけど……っ)
ぎゅっと膝の上に置いている手のひらを
握りしめる。
一点の曇りもない目で告げる義経様に、
ぶんぶんと首を振る。
『戦場がふさわしいなんて、
そんなことはないと思います
義経様はとても強い方かもしれません
それでも戦場以外に、いくらでも
ふさわしい場所があるはずです』
(……義経様は、優しい人だと思うから)
「…………」
家臣達から毒殺未遂の下手人に
疑われた時のことを思い返す。
(向けられた強い憎しみは、私が
幕府の人間だからってだけじゃない
誰よりも慕っている義経様の命の危険に
さらされたからだ)
『義経様が家臣の皆さんを思っているように、家臣の皆さんだって義経様のことを思ってる……大切な人が傷ついたら辛いのは、
誰だって同じです』
「…」
(だから、まるで自分を棄ててしまって
いるようなことを言わないでほしい)
込み上げる思いに、唇を噛み締めた。
「優しいな、あなたは」
義経様は迷うように、だけどはっきりと
言葉にする。
「あなたの気持ちは嬉しい
けれど、俺自身が求めているんだ。
戦場の血と、喧騒を」
『本気で、仰ってるんですか………?』
「俺だって誰かの命を奪いたいと、
争いたいと願っているわけではない
それでも……刀を握り鉄錆の匂いを
嗅ぐ度に、どうしようもなく生を実感する」
(あ…………っ)
瞳の奥で揺らめく姿に、初めて義経様を
戦場で見た時の光景が蘇る。