第21章 人質
けれど、義経様が嘘をついているようにも
見えなかった。
「色々と理由があったと後になって
知ったのだけど」
(理由……? 何だろう、それ)
引っかかりながらも話の続きを待つ。
「俺しかいない部屋から話し声が
聞こえたり、身の回りで不幸が立て続けに
起こったりしたことが、腫れ物扱いに
拍車をかけたのだろう」
『だけど、それはあやかしのせいなのに……』
義経様の瞳がかすかに陰りを帯びた。
「仕方のないことだ。
それは俺以外にはわからないことだったから
ただその頃の俺は、漠然と自分の居場所は
ここにはないのだと感じていた
そんな時に、鞍馬山を住処にしていた
鞍馬と出会ったんだ」
『そんなに前からお知り合いだったんですね
……!』
(思っていたよりもずっと長い付き合い
だったんだな)
『あ……そういえば、鞍馬は
「童子の頃から魂に目をつけていた」って
言ってましたね』
再開したあの夜のことを思い出す。
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「確かに人間など退屈しのぎの玩具で
しかないが、義経は別だ
この男が童子の頃から魂に目をつけて
いたのでな」
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(よく考えたらすごい話だよね……)
「鞍馬曰く、あやかしに好かれる体質で
成人を迎えるものはいないそうだ」
(うん、よく知ってる)
『それじゃあ、義経様も……』
「こうして存在していられるのも、
鞍馬が何らかのまじないを施していた
せいらしい」
(つまり、勝手に施したってこと?
…鞍馬らしいといえばらしいか)
『だけど、鞍馬は初めから義経様の魂を
食べるために近づいたってことですよね?』
「ああ。出会った時に本人が言っていた。
「成長したお前の魂を寄越せ」と」
(やっぱりか……)
「面と向かってそんなことを言われるとは
思わなかったので驚いたけれど」
義経様は一度言葉を切り、空を見上げた。
雲に隠れていた月が顔をのぞかせ、
夜の闇を照らす。
「………同時に、嬉しくもあった
いずれ成長した魂を喰らうことが
目的だったとしても、鞍馬が初めての
友達だったから」
(あ…………)