第21章 人質
驚いて尋ねてみると義経様が頷いた。
「昔から笛を吹くと、なぜか
集まってくることが多い」
(そんなことってあるんだ)
『いいなあ……!
動物に好かれているんですね、義経様は』
「笛の音を好いているのだろう」
(そうかな…? 何となく、
義経様が吹いているからじゃないかと
思うんだけど)
『あの、もう一曲、聴かせて
いただいてもいいですか?』
「では」
再び義経様が笛を吹き始めた。
(…こんなに上手なのに、やっぱりどこか
物悲しい)
どうしてか切なさに似た感情が込み上げ、
ゆっくりと胸に浸していく。
───ふと思い出したのは
京のお祭りで見た義経様の表情だった。
(あれは確か、迷子の弟を探す男の子と
出会った時に……)
─────────
「簡単に兄を嫌える弟はいない」
「本当に……?」
「ああ
けれど、これからは仲良くした方がいい
───人がいつまでも同じ道を行けるとは
限らないのだから」
────────────
(……あんなに悲しい顔をする人、
見たことがないって思ったっけ)
あの時、いつもと表情は変わっていない
はずなのに、義経様の瞳には
謎めいた火が冷たく静かに揺らめいていた。
(この人の内側に隠された感情は……
きっと、普通の人間じゃ計り知れない
くらいに大きいんだ
優しい義経様と、冷酷な義経様。
どっちが本当の彼なんだろうって
思ってたけど………)
義経様の笛の音を聞いた今なら少し
わかる気がした。
(義経様は純粋だからこそ、
その身体の中に大きすぎる感情を
秘めていて……秘めているからこそ、
それが表に出る時には苛烈な炎に変わる
───どっちも同じ義経様なんだ)
曲の途中で、不意に笛の音が止んだ。
「………」
『っ、』
(この気配……)
『……あやかし』
地面に蠢く黒い影のようなものが目に入り、
息を飲み込む。
「珍しいな。
夜とはいえ、館の中に鞍馬以外の
あやかしが出るとは」
(…私のせいかもしれないな)
たとえ遭遇することに慣れていても
にだって怖いあやかしがいる
「あれは姿形も意思もない下級のあやかしだ」
『…そうみたい、ですね』