第21章 人質
(気持ちいいな……)
夜の澄み切った空気を胸いっぱいに吸い込む
庭園は出入りが許されている場所の一つだ。
優しい風が頬を撫で、そっと目を閉じた
その時───
(あれ?この音は…)
どこか聞き覚えのある笛の音だった。
夜の静寂に響くせいか、
美しくも悲しくも聞こえる調べだった。
(……探してみよう)
音の先を求めてゆっくりと歩き出す。
急ぎ足で進んでしまえば、
この綺麗な調べが壊れかねない気がした。
「………」
(あっ……)
庭の奥で木陰にもたれ、笛を吹いている
義経様の姿が目に入る。
(綺麗……)
儚く月明かりに照らされた姿に目を奪われる。
その場でしばらく立ちすくしていると……
「あなたも眠れなくなったのか」
義経様は演奏を止めて、私に視線を向けた。
(あ、残念。やめちゃった)
もっと演奏を聞きたかった気持ちをかくし、
口を開いた。
『はい……すみません、
邪魔をしてしまって……』
「気にしなくていい
一人になりたいのなら、場所を譲ろう」
(いやいや!私が後に来たんだしっ)
『大丈夫です!私は部屋に戻りますから』
踵を返して、その場から立ち去ろうとする。
「待て。
良ければこのまま少し話さないか?」
(う、どうしよう
このまま部屋に戻っても
寝付けそうにないし……)
『じゃあ、お言葉に甘えさせてください』
こちらに歩み寄ってきた義経様と一緒に
縁側に腰を下ろした。
『あの、とても綺麗な音色でした』
「ありがとう。
子供の頃からの趣味だ
───あなたと初めてあった日も吹いていた」
『あ、だから聞き覚えがあったんだ…
でもそれが今でも続いてるなんて
素敵ですね』
「そんな大げさなことではない。
時折、こうして気まぐれに吹いてみるだけだ
聞く相手も、あんなふうに鳥や獣
くらいしかいない」
『あ…!』
義経様がいた木陰をよく見ると、
たくさんの鳥が止まってこちらを
気にしているようだった。
(…!それだけじゃない、草むらの中から
野兎まで覗いてる)
『夜に動く動物じゃないのに、
あんなふうに集まってるなんて……』
「今夜は数が少ない方だ」
『え、いつもはもっとたくさん来るって
ことですか?』